とうとう開かれた、わたしの歓迎会。夕方から、仕事をはやめに切り上げて、上から下まで、あれよあれよといううちにお手入れされた。眉毛を整えられたり、顔の産毛を剃られたり、というか全身の毛を剃られたり、香油でべたべたにマッサージされたり、順番にあげていったらきりがないほど。
「ふつう、女の人は、こんなにお手入れをしなきゃいけないものなんですね」と世話係さんに告げたら、苦笑いされてしまった。
それから、ドキドキしながら食堂に向かう。奴隷としてひろわれてきたわたしを、祝ってくれるなんてほんとうだろうか。幸せすぎて、騙されてるんじゃないだろうか、なんて考えると緊張や喜びやらで頬が上気した。
すると、そこは本当に小さなパーティー会場のようになっていた。いつもより、少しだけ豪華なディナーに、お手製の横断幕、わたしが大好きなデザート。それから、みんながお金をだしあって買ってくれたというプレゼントが用意されていた。こんな暖かな歓迎を受けたことなんて、記憶にある限りはなく、わたしは年甲斐もなく人前で泣いてしまった。
プレゼントの箱の中に入っていたのは、黒の美しいドレス。スカートのところには、大胆なスリットがはいっていて女性らしいシルエットのものだった。こんな素敵なもの、憧れを抱くことすら許されなかったのに。
「なまえさん、いつも従業員用の服でしょう?せっかく若くて綺麗なのに、もったいないわ」
そういって、世話係さんがほほ笑む。まわりも、わくわくと身をのりだして覗き込んでいる。いつの間にか、みんなの注目の的だ。
――――――なんで、みんなこんなに優しいのだろうか。
「………こんなすてきなの、本当にわたしに似合うんでしょうか? 」
こんな素敵なプレゼントを用意してくれたみんなの好意がうれしくて、でも自分にこんな素敵なプレゼントが似合う気もしなくて、嬉しさと心配が入り混じり、感極まって、また泣き出してしまった。それをさっきと同じように、みんなが冗談をいっては笑わせようとする。その中で、誰かが「いま着てみなよ!」といいだした。
その声に押されて、一度下がって実際に着替えてみても、なんだか落ち着かなかった。上等な布のさらさらとした心地のいい着心地にも慣れず、なんだかもぞもぞする。みんなも慣れないようで、ざわめきだっている。
「化粧が足りないから――」
「いや、髪が不揃いなのがいけない――」
「いやいや、このストレートの髪がいいんじゃないか―――」
「紅をもっとさしてやれ―――」
「いや、香水だ―――」
みな、口々に思い思いのことをいっている。
「じゃあさ、ぜんぶきれいに整えてクロコダイル様にも見せようよ」
また、誰かがいいだしたそんな一言で、わたしはお化粧から髪まで、すっかり綺麗に整えらえてしまった。
そして今、歓迎会も終わって、わたしはクロコダイルの部屋にいる。
明日もあるため歓迎会は早めにお開きとなり、わたしはクロコダイル様の私室で待機することにした。いまだに、布の感触には慣れない。つけなれない口紅の感触ももぞもぞするし、髪は触ったら崩してしまいそうで、気になっても触れない。クロコダイル様にはやくみてもらいたい、でも、少し怖い、緊張する。ふたつの感情が混じり合って落ち着かない。
そんな中、入口の扉が開くのを見て、私は急いでソファから立ち上がった。