きみとぼくの日曜日

学パロ


三人寄れば文殊の知恵というけれど、シャチ・ペンギン・なまえがつるんだところで無論のこと文殊には到底およばず、むしろ、シャチとなまえがペンギンに世話を焼かせて相対的に知恵は減少するばかり。そんな三人組は、同じ学科のいわゆる仲良しだった。というより、なまえとシャチが、主に学業面での問題児であり、それになんだかんだで世話を焼いてしまうペンギンが、勝手に一蓮托生に巻き込まれている。そんな入学から続く腐れ縁をペンギンが面倒におもうのは、いつも、テスト前のこの時期。「一人暮らしの部屋が一番広い」という理由でふたりにあがりこまれて、ていの良い勉強部屋扱いをされるとき。テーブルには所狭しとプリントとノートが広げられ、やたらめったら飲み物をとりに行くシャチと、ウンウン唸る声をだしているなまえを前に、とうとうペンギンの堪忍袋の緒が切れた。

「あー、もう、うるせェ!うるせぇ!お前ら勉強する気あるのか!」
「はい、あります!でもごめんなさいウンウン唸るのだけは許してください!どうか見捨てないでペンギン様!」
「勉強する気はねぇけど再試は嫌だ助けてペンギン様!」
「お前らなぁ……!」

がくっと肩を落として、疲れた溜息を落としたペンギンは、まるめたテキストで、ポン、ポンとなまえとシャチの頭を叩いて、じとりとした目でふたりを睨みつけた。

「いいか、緊張感が足りねぇんだ。勉強に対するモチベーションが低すぎる。おれだってそんなに余裕があるわけじゃねぇんだから、一から十まではつきあってやれないぞ」
「ペンギン様、お言葉ですが、わたしはがんばっています、でも一生懸命がんばっていても勉強ができません!」
「なまえはまずそのペンギン様ってのをやめろ!」
「おれは、なんとかなるんじゃねぇかなぁって思ってます!」
「シャチ!やることやらなきゃなんとかなるわけねぇだろ、小学生か!」

やれやれと、ペンギンは額に手をあてて頭をふる。悪気ないのがわかっているぶん、性質が悪い。だが、このままだらだらと続けたところで効率が悪いのも事実。このゆるっゆるに緩んだ雰囲気を打破しなければ。そう思い立ったペンギンは、机に両手をついてふたりの注意をあつめると、厳粛にいいはなつ。

「わかった。罰ゲームを決めよう。」

その提案に、なまえはヒッといって顔を顰める一方、シャチは「面白そー!」と目を輝かせた。

「つってもなぁ、なんも思いつかねぇ」いいだしてはみたものの、特にアイデアがあるわけではなかったようで、ペンギンは腕を組んで悩まし気に天井を見上げる。

「はいはい!おれあります!今日おわって、一番進捗やばい奴が、キャプテンに電話して、なんか怒られそうなことを聞く!」

シャチの提案に、ペンギンとなまえは刮目する。キャプテンとは、同じ学科のトラファルガー・ローのことである。ペンギンとシャチは高校からの知り合いらしく、随分懐いた様子で大学に入学後も「キャプテン」呼びを続けていた。

「流石にキャプテン巻き込むなよ」
「いやだよぉ、ローさん、めっちゃ怖い、……もう目付きがすでに怖い」

ペンギンは呆れた表情で、なまえに至ってはなぜか心底怯えた様子で若干涙目になっている。

「でもよぉ、キャプテンにいつも怖くて聞けないこととか、ついでに聞きたくね?……ほら、初体験の年齢とか」

シャチは悪戯っぽい笑みを浮かべてペンギンをみやる。ペンギンも、いわれてみれば、といった顔で瞬きを繰り返している。シャチは不真面目なだけで、実は意外と要領はいいのだ。どうせなまえがビリになる。にんまり。ふたりの男子は互いに目を見合わせて人の悪い笑みを浮かべた。男としては気になる。だって、あれだけちょっといないイケメンなのだ。どんな武勇伝が飛びでてくるかわからない。同じ学科の飲み会で、なまえとローが電話番号を交換しているのも、流石にいつもつるんでいるだけあって把握済みである。

「反対!もっと楽な罰ゲームにしよ!」
「うんうん、それだけ嫌がるってことはそれだけ真面目に勉強するモチベーションになるな。一番やばいのなまえなんだから、いいことじゃないか」
「決まりな!」
「横暴!」

なおもごねるなまえに、「じゃあ代案は?」と聞いたところでごにょごにょと口を濁すだけで何もでてこない。「ビリにならなけりゃいいんだよ!」とシャチが元気よくいって、なまえの肩に手をおいた。「うん、そうだね」となまえが力無く返す。目が死んでいる笑みだった。こうして、勝手にローをも巻き込んだ罰ゲームが決定された。

しかし、先ほどまでの緊張感のない空気が一転、ペンの走る音と呼吸音だけが粛々と響く引き締まった雰囲気に、「おれが求めていたのはこれだったんだよ……」とペンギンはひとり胸の中で泣いた。



飲み物休憩!と一番先に集中力が切れたシャチがいうと、残りのふたりも同意した。凝った肩をのばすように、伸びをしたなまえの、目の前にあるノートをふいに覗き込んだシャチが、あれ?と声をだす。

「ていうかなまえのこのノート、もしかしてキャプテンにうつさせてもらった?」

ひょいと首をのばしてシャチがなまえのノートをのぞきこむと、ぎくりとしてさっとノートを覆い隠そうとした。しかし、一瞬遅く、ペンギンがノートを奪う手が早かった。

「あ、ほんとだ!しかもなまえのノートが綺麗にまとまってる!ありえねぇ!あの資源ゴミと見分けつかない汚ェのが!つーか、マジで?あのキャプテンが、なまえに……?」

「うるさいっ。ていうか今、わたしたちは敵同士だから!わたしのノートみちゃだめだから!」いうなり、驚いた様子でかたまっているペンギンの手からノートを奪取する。

「それ、なまえのじゃなくてキャプテンのだろ!」ずりぃ!というシャチに、「わたしがもらったからわたしのなんですー。ていうかローさんに教えてもらって自分でまとめたんですー」となまえ。

トラファルガー・ロー。顔良し、頭良し、運動神経良し、近寄り難い雰囲気に気難しい性格をしているけれど、それすらも怜悧な風貌にあわさるとただの魅力的なスパイスとなってしまう。入学以来ずっと首席で、猛勉強している様子もないのに。しかし、高校からの知り合いであるシャチとペンギンは、ローのノートがおそろしく要点を簡潔にまとめ、さらに必要な情報を適宜追加した「教科書よりもわかりやすい」「猿に相対性理論を理解させることもできそう」なノートだということを知っていた。

「なまえとか、キャプテンとぜってぇあわなそうなのにな」
「虫けらとかと同等の扱いされてそう。視界にいれてもらえなさそう」
「酷くない?!わたしの扱い酷くない?!そんなことないよ?!はい、わたしもう話しませんから、ノートもみせませんから!」

むすっとした顔でなまえは机に向き直る。からかいすぎて、臍をまげてしまったようだ。しかし、なまえがローのノートを持っているとなると、罰ゲームはなまえで安泰というのが怪しくなる。残り数時間、これは本気をださないとまずい、と残りのふたりも改めてそそくさと机に向かうのだった。




「あぁ、いや。ほんといや。ほんと無理。絶対怒るじゃん。絶対いや。どうか許して」
「逃げるのかぁ。男らしくないぞ!」
「…………わたし男じゃないし」
「じゃあ約束やぶるの?」
「うっ……」

結局、結果はかわらなかった。元から成績優秀のペンギンは別として、シャチはすれすれの僅差でなまえに勝利した。なまえは、勝ち鬨をあげるシャチを前に悔しそうな声をあげながら頭を両手で掻きむしっている。なまえは妙なところで律儀で、約束を守るのは気にする。最終的に、なまえは観念して肩を落として携帯電話をとりだした。

「ローさんが怒りそうな雰囲気があったらすぐに撤退するからね」

ビシッと挑戦的に鼻先に向かって指をさしてやったところで、シャチもペンギンも気にした様子はない。らじゃー!とばかりに調子よく敬礼を返すシャチに、にやにや笑いを隠そうともしないペンギンを前になまえは恨めし気な目でみつめて、溜息をついた。

「………もしもし、あ、ロー?いまちょっと平気?」

ん?シャチとペンギンのにやけ笑いが消える。どこかおかしい。何か、うまくいえないけれど、おかしい。違和感があった。けれどそれを探り当てるのを待つ間もなく、なまえとローの会話は進む。

「うん、そっか、ありがと。あのさァ、質問があるんだけど」

あれ、なまえとキャプテンってこんなに仲良かったっけ?と思ったのだ。そうだ、なまえの口調があまりにくだけていて、それに違和感を覚えたのだ。飲み会で番号を交換していた時点では、敬語で必要以上におどおどしていたなまえは、シャチとペンギンの前ではさん付けのくせに、電話ではロー、なんて親し気に呼んで。

「ちょっと変な質問なんだけど……うるさいなぁ。そんないつも変なこといってな……、え、何?」

さっさと聞くだけ聞いて、なまえにローとの関係を聞いてやろう。そう思ってふたりが目を見合わせると、どうやら会話が横道に逸れていく。それも危ない雰囲気で。

「あ、ちょうど電話するとこだったって、……え、何?動物園に行きたい?急にどうしたの……シロクマがみたいから?あはは、何いきなり顔に似合わない可愛いこといってるの。どちらかというと動物園の動物を解剖したいとかいうキャラじゃないの、……嘘ですごめんなさいノートみさせて欲しいです見捨てないで」

目の前でされる親し気な会話。ローの声は漏れてこないけれど、なまえの喋り口から楽しそうなのが伝わってくる。いつものローは電話を好まず、簡潔・淡泊に用件だけ聞くと切ってしまうのに。変だよなあ?そうおもって、シャチはペンギンをみやると、ペンギンも同じような感想を抱いたらしく、頷かれた。

「あー、そっかそっか。いつも勉強教えてもらってる御礼で、つきあえと。そんなことかぁ、いいよー全然。……うん。来週の日曜日……は空いてる。え、なんでわたしのバイトの予定をローが把握してんの怖い。………またまた、ご冗談を。……意外と顔に似合わない冗談いうよね。そうそう、礼は身体で、とかいうのも、びっくりしちゃったんだけど。冗談にしてはたちが悪いというか、全然センスないというか、……って何?何でそんな笑ってんの?ん、あ、そうそう、質問なんだけど」

なまえがシャチとペンギンに向けて親指をたてる。どうやらローの機嫌は上々、このまま聞きます。との合図だとわかった。ごくりと二人は生唾をのむ。長年の謎がついに解けるときがきた。

「……ローって、その、あの……」

なまえが口ごもる様子を手に汗かきながら見守る。つーかいきおいよく聞いちまえって!ともどかしくなったシャチが両手を仰ぐようにして煽り立てたとき、なまえがついに。

「……初体験って、いつ、だった?」

一瞬、場の空気が凍る。電話越しですら、ローが固まってるのが、ふたりにもわかった。なまえは動揺した様子で視線を彷徨わせる。

「………あの、そんな、フリーズしないでもらえるかな。わたしだって好き好んできいてるわけじゃ……おれと寝たいのか?ってバッカじゃな、……すいませんわたしが聞きました」

傍目でみていてもなまえの顔がどんどんと上気していく。1人百面相をしているなまえをみて噴出したシャチを、ペンギンが肘で突く。

「今度会ったときに教える?それじゃあだめで、今聞かなきゃいけなくて、あ、ここにシャチとペンギン?う………イ、イマセンヨー。ほんとわたしの個人的興味だから。ほんと。ほんと。信じて。わたしローにめっちゃ興味があるから!」

勢いよくいいきる。力技で誤魔化したな、とペンギンは生暖かい目で見守り、シャチは「やべーやべー」と小声で呟いている。そのあとは、急になまえは小声になり、うん、だとか生返事をして通話を切った。涙目のまま、きっと睨まれてシャチとペンギンは両手で降参のポーズをとる。

「ごめん」
「すまん」
「ほんとだよ!」

なまえの目元は羞恥で薄紅に染まり、その表情の色気にペンギンはどきりとしたが、いやいやまずいと反射的に思いなおして、―――何がまずいんだ?と疑問に思った。そんなことには気づかず、なまえは眉をつりあげたまま続ける。

「ふたりのせいでわたしがローさんに告白したみたいになっちゃったじゃん、ばか!責任とれ!あ、ちなみに、14歳のとき、近所のお姉さんとだって!」

「1、4?!やべぇやつじゃん!それ!近所の、って何それ、現実に起こるんだ、そんなん!」

律儀に結果をつづけるなまえに、大興奮のシャチを無視して、ペンギンはそっとなまえの腕をつついて尋ねる。

「つーかなまえってなんで、キャプテンのこと、呼び捨てにしてんの?」
「それが、酷い話なんだよ」と、なまえは疲れたように答える。

「ちょっとわたしに対する態度が横暴すぎませんか?っていったら、「不満なら、呼び捨てでいい」とかいってね、強制的に呼ばされているの。さん付けにすると不機嫌になるの。でもその提案がそもそも上から目線だよねぇ?あのひと暴君だよ、ほんと」

「そうかー」と答えたシャチの声は棒読みもいいところだった。何かが、おかしい。だが、これ以上つっこんだら危ない気がする。そうおもって、すべてをなかったことにしたのだった。



title by 星食

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