足の甲なら隷属

祈りに似た所作で、恭しく足の甲に触れた唇は、羽毛のようにやわらかく、甘い余韻を残して離れていった。微かにひらいたままの唇がゆっくりと隙間をひろげていき、白い歯列がのぞく。視線をふせたままの、クロコダイルの吐息が空気を震わせた。

「―――これで、満足か?」

吐き捨てる様な台詞に、いまだ重ならない視線。思わず唾をのみこんだ。『――そんなこというなら、跪いて足にキスでもしてみせて』。売り言葉に買い言葉で飛び出た言葉だった。けれど、心のどこかに、いってさえしまえば諦めてくれるという確信もあった。この、プライドの高い気取り屋に、人の足元に傅くなんて、耐えられることではないと。まさか、クロコダイルがここまでするなんて。知っていたら、こんな馬鹿げたこと、いわなかった。………牙をつきたてた獲物に対する、この男の執念深さを甘くみていただけと、身をもって知ることになってしまった。

隷属を誓うキス。屈辱的なキス。なのに、捕らわれたのは果たして誰なのだろうか。跪いて、足の甲に口付けている相手がおそろしくて、逃げだしたくて、掴んだままの足首を放してもらいたくてたまらない。指先が食い込むほど強く握られて、足の先から痺れていく。

「………ようやくおれのものだ」

睨みあげるようにして、なのに口元には笑みが浮かんでいて、表情にかかる陰に全身が震えた。クロコダイルがまた、足の甲にキスを落とす。瞼を閉じて、うっとりと。その光景の不可解さに意識が遠のきかけた。

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