朝、軒下で小鳥が死んでいた。ふんわりと白く、まんまるとしていて、まるで、空島の雲のような鳥だった。毎朝、同じ時間に顔をあわすものだから、情がわいて果物のかけらをあげたりしていた。チィチィと可愛らしい声で餌をねだって、桜貝のような嘴で、果物をついばむのをみているのが好きだった。
それが、島雲に沈むようにちいさな身体を横たえて、朝、死んでいた。ふわふわの羽毛が、ばさばさと乾燥して乱れて、時折風に吹かれてゆれていた。それをみると、胸がきゅうと苦しくなって、喉の奥が熱くなる。あのくるんと丸い潤んだ瞳がまたたくことはないのかと思うと、どうしようもなく悲しい。
ちいさな亡骸から目を離せず、まるで縫い付けられたように立ち尽くしていたわたしに、遅れてやってきたエネルが気づく。少しだけ、驚いたような調子で、声をかけられる。
「なまえ、泣いているのか?」
その問いに、何といえばいいのかわからず、視線をあげて、エネルの顔をみる。意外そうに、エネルの眉がぴくりとあがった。
「………小鳥が、死んでいます」
「あぁ……」
ふいと視線を軒下に移したエネルは、そこでようやく小鳥が死んでいることに気がついたようだった。ぽり、と頬を指先で掻きながら、事もなげにいった。
「生物はみな、死ぬだろう」
朝になれば腹は減るし夜になれば眠くなる、だからどうした?とでもいいたげな口調だった。ちくりと胸が刺すように痛む。事実を告げられただけだというのに、ぽろぽろと、涙があふれる。
「なまえ、何故、泣く?」
小鳥が死んでいることに気づいたときより、ずっと動揺した様子で、エネルがわたしの顔をのぞきこむ。透明なスカイブルーの瞳には心配そうな色が浮かんでいる。小鳥が死んだことには、まったく心動かさなかったくせに、わたしがちょっと泣くだけで慌てているのが、不思議で、悲しかった。
「エネル様は、泣かないのですか?」
「…………記憶には、ないな」
何故、そんなことを聞く?と、問おうとしたのだろう。微かに開いたエネルの唇は、しかし、声を発することなく閉じられた。眉を顰めて、考え込む様子のエネルを前に、わたしはじっとそれを見つめるだけ。その間も、涙は零れ落ちては頬を濡らした。エネルがゆっくりと視線をわたしに戻す。ぽつり、ぽつりと、しずかな声が、胸にしみこんでいく。
「わたしは、何故、なまえが泣いているのか、理解できない。だが………」
一端、言葉が区切られ、視線が落とされる。綺麗に揃う睫毛が朝の光を透かしてきらめいた。落ちた視線があげられる。
「なまえの涙をみると、苦しくなる。だから―――泣くな」
そっと、目元に口づけが落とされた。けれど、あたたかい唇が優しくて、わたしは結局涙をとめることができなかった。
title by るるる