ある娼婦の戯言

「んー、雰囲気が少し柔らかくなったかな? 特にベッドでなんだけど、これはミス・オールサンデーには関係ないよね。前までほんと、勢いに任せて〜っていうかやりたいようにやってたけど、ちょっとこっちのことも気にしてくれるようになったかも。とにかく、柔らかくなった。ほんのちょーーっぴり」といいながら、指でいかにちょっとか示してやると、彼女は面白そうに笑う。

「あら、あなたも気づいた?」

やっぱり、ミス・オールサンデーも気づいてたか。こんなに聡い彼女が、あれだけ彼の側にいて気が付かないわけがないか。

「そりゃ、気づくわよー。なんか、良い人でもできたのかなって思って聞いちゃった。そしたら、あれはビンゴ! ね。本人なにも言わないけど、雰囲気でわかっちゃう。プロだもん。夜だって余韻も何もなく、帰れ、なんだもん。あ、これは昔からか。でもね、それがね、こっからが面白いの」

「なにが面白いの?」

彼女も、興味をもってのってくる。

「わたしね、『じゃあ、こんなとこでこんなことしてないで、その子抱けばいいじゃないですか?』っていったらね」と、そこまでいうと、驚いたようにミス・オールサンデーは口を挟む。

「あなた、そんなこといったの?勇気あるわね」

「もちろん、ものすごいオブラートに包んであほっぽく悪気なく聞いたわ。ふふっ、ま、プロだからね。そしたらね、すごいの。何回も聞いたら、すごい不貞腐れたような顔で渋々答えてくれて、『一度はじめちまうと、何度もしたくなっちまう』なんていっちゃってね。可笑しいの、そんなに欲望を素直にぶつけられない程、可愛く思っちゃってるみたい。何回もヤったら壊れちゃうとでも思ってるのかしら。でもその相手にはそんな気遣い、絶対言わないでしょうね、あの感じ」

そういってケラケラ笑う。

「あ、でもこれ本人にいっちゃだめよ。私、殺されちゃうから」と釘をさすことも忘れない。非情でプライドが高いあの方のことだ、知られたら、消されちゃうだろう。あの冷たい眼は、そういうことができる人の目だ。


「言わないわ、約束する。それにしても、あなたなんでそんなこと、私に?」

「だって、ミス・オールサンデー、クロコダイルさまのこと、そこまで好きじゃないでしょう? だから、愚痴でも相談でもいいやすいの、クロコダイルさまに報告されないだろうから。…………なんてね! うそよ。さて、娼婦の戯言はこれくらいにしなくっちゃ」

「………あなたって、ほんといち娼婦にしていくのは惜しいと思うわ」

「ありがとう、でもね、私はこれが結構あってるのよ。それに、あんなおバカなボス、私がいなきゃどうにもならないわ」あ、これも冗談ね、といいながらウィンクする。

「ふふっ。えぇ、あなたがいないと、彼もきっと困っちゃうわね」

そうして、時計に目を落とす。

「まぁ、もうこんな時間。おいしいお紅茶、ありがとう。また来るわ」そういって彼女は席を立つ。


去りゆく背中に「また来てね」と声をかけると、足を止めて振り返って手を振ってくれた。

さぁ、日暮れももうそろそろ。私も私の仕事の準備をはじめなければ。

いったいクロコダイルさ、あに大事にされている女は、どんな人だろう。ああ見えて意外と執着心の強そうな人だ、いずれにしても大変そう、と見も知らぬ彼女に少し同情して、それから着替えるべく私室へと向かう。誰もいなくなった客間には、ふたつのカップと小皿だけが残された。

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