で、結局どっちなんだ?と尋ねたくなるような言い方はよして欲しい。と、心底から思った。
困惑は表情にはあらわれないものの、態度は如実にそれを示したものとなる。なのに、なまえもまた、困ったように眉をさげて、そんなわたしをみつめていた。
わたしの腕の中にちょうどよくおさまるなまえの身体から、熱がつたわる。心情を吐露したいきおいでつい、抱きしめてしまったなまえを、わたしは解放することができない。
なまえにふれたい。でも、同じだけ、なまえを傷つけなくない。どうすればいいのか、わからない。
わたしが、そういったら、なまえは少し困った顔をして、それから笑って、「エネルくんが、好きなようにしていいんだよ」と。
………それは、結局どっちなんだ?
抱きしめてしまってから、気づいた。なまえにふれたい。でも、なまえを傷つけたくない。相反する本音。いや、本音、というには正確ではない。ふれたい、なんて可愛らしい表現でいうにはあまりに禍々しい欲をわたしは抱えている。
思考がくるくると、空回転を続ける。そのうちに、身体に溜まる熱はおおきくなる一方だというのに。
そんなわたしの首に、なまえの腕が、遠慮がちにまわされた。やわらかい腕だった。筋肉質で隆起するわたしの腕とは大違いの、女の腕だ。けれど、そんなか弱い腕の力に抗えず、わたしはなまえに引き寄せられる。なまえの睫毛が微かに震えている、それが、みえるほどに。
「エネルくんが、好きなように、していいんだよ」
なまえの声が、震えていた。そうっとつけたすように、ぷくりと膨れた唇が、「好きだよ」と囁いた。
あぁ、それは、そういうことだというのでいいのだろうか。わたしは、わたしに都合よく解釈しているにすぎないのだろうか。そう思うのに、わたしは遠くで、理性が総決壊する音を聞いた。
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