オブラートの決壊

ミホークさんは、大人ですよね。そういうなまえがまるで拗ねた子どものようだったので、思わず笑ってしまったら、ほらまた、そうやってわたしを子供扱いする、と今度は臍を曲げられてしまった。

「いきなり何をいいだすのかと思っただけだ」

頬を指先でなでながらそういうと、じっとりとした恨みがましい目でみつめられる。「そんなんじゃあ誤魔化されませんよ」とでもいいだげで、それがまた可愛らしく、口元が緩みそうになったが耐えた。ぱちりぱちりと瞬きを繰り返す瞳をみつめていると、気持ちが蕩けそうになる瞬間があり、己を律して引き締めなければいけないから、難しい。

「ミホークさんは、大人で、わたしよりたくさん経験があって、………女の人にだってモテて、経験だってきっとたくさんあって………それが、ずるいなあと思っただけです」

あぁ、と思い当たることがありひとり得心する。つまり、簡潔にいってしまえば、なまえは、妬いているのだろう。残念ながら、今のところ、何を対象に妬いているのかはわからないが。

そういうと、人は鈍感だというけれど、正確には違う。興味の対象が極端に狭いのだ。興味のないものは歯牙にもかけない、かわりに、興味を持った対象には深く介入してしまう。気をかけずにはいられない。―――なまえは、おれの数少ない、惹かれてならない対象であることに自分で気づいているのだろうか?そんな彼女が、ヤキモチを妬く必要などないというのに。そう思いながらも、あえていってやることはない。もう少し、ヤキモチをやいて頬をふくらませているなまえをみていたいからだ。しかし、ある程度機嫌はとってやらなければならない。

「そんなことはない」
「だって、わたしは、ミホークさんに比べたら………いったい、なんで、わたしと一緒にいてくれるのか、よくわかりません」

いじけた様子で呟いたなまえをみて、不意に、指先でくすぐるように弄んでいた手つきを止め頬を包み込むようにして上をむかせる。

「なまえは、魅力的だ」

笑みを顔から消して、言う。

「肌も声も匂いも仕草も、興味と、さらにいうなら、欲を掻きたてられてならない。そこに明確な理由はあるのか、感情の言語化をすることもできない程、感情が理性を凌駕することを良しとする程、好いている。いっそのこと、おれのものとして、世界と隔絶し閉じ込めてしまいたい。しかし、立派な大人としての体面がある。あまりそういった欲望をさらけだすことも憚れる、ゆえに、大人ぶらずにはいられないのだ」

なまえが、呆気にとられた顔をしている。そうして、かたまること、数十秒、今度は耳まで赤くなるほど顔を上気させた。その、素直な反応がおかしく、愉快な気持ちになり、つい声をあげて、腹の底から笑ってしまった。「そうやって、また、人をからかって」と口の中で呟くようにぶつぶつといっているなまえをみる。ひとつも嘘も冗談もいっていないことに、きっとなまえは気づいていないだろう。だが、ずるい大人であるから、おれは、それを否定も肯定もせず、ただ、口の端に笑みを浮かべるだけに留めた。

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