腹なら回帰

「ちょっと、ルッチ、んッ!」と、制止を求める言葉の最後は、まるで甲高い喘ぎ声のようになった。それも、これも、すべて、人の上に跨る男のせいだ。

久しぶりに会ったというのに、顔をあわせた瞬間からまともな会話もなく、力づくで腕に抱えられたとおもったら、気づくとソファに押し倒されていた。

何なの、だとかやめて、だとか抗議の言葉はすべて何でもないことのように無視され、べろりとシャツを捲りあげると、鼻頭をこすりつけるようにして、ルッチはべろりと臍まわりを舐めた。

それに、思わず声をあげてしまった。ゆたかな黒髪の隙間からルッチの瞳がのぞく。こちらに向く視線には、ありありと嗜虐的な色が浮かんでいる。少し眠たげな、それでも鋭い印象を与える瞳が、愉しげに細められる。―――もともと、そのつもりだったのか、わたしがきっかけをつくってしまったのかは、わからない。ニィと笑みを浮かべたルッチの唇をなぞる舌の紅さが印象的だった。

爪先を几帳面に整えた白い指が、シャツの釦なんかお構いなしに力いっぱい引っ張るから、いくつかの釦ははじけ飛び、シャツの前が中途半端に開かれた状態になる。そうして外気にされされた素肌に、ルッチは紅い跡を残していくのだ。

思わず、くすぐったさに身を捩りそうになると、長い指が横腹を掴んで動きを制止する。その指先の冷えた感覚すらくすぐったい。雰囲気にそぐわない、間の抜けた笑い声を零すと、ルッチが不満げに顔をあげる。

「もっと、可愛らしくできねぇのか」
「………ルッチこそ、久しぶりなんだから、もっと、優しくできないわけ?」

ルッチは、小首をかしげると、小馬鹿にするように鼻でわらった。さらに「バカヤロウ」なんて台詞のおまけつき。なんでバカ呼ばわりされなきゃいけないの、変なこと言ってないと思うけど。そんな気持ちで唇をとがらせていると、顔にかかる前髪をかきあげながら、ルッチがひとこと。

「そんな余裕、あるわけねェだろうが」

それは、あまりにさり気ない言い方で、あまりにも何でもないことのようにルッチがいうものだから、わたしは言葉の意味をすぐに理解できなかった。まぬけな様子でぽかんとしているわたしに気にかけず、また、腹にちゅ、とやわらかいキスを落とすルッチの右手は、太腿をあやしくなぞっていて、確かに余裕はなさそうだ、と、そのときようやく思った。

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