Dopo la pioggia viene il bel tempo

リズミカルに、雨粒が地面を叩く音がひびく。湿気た熱をふくむ空気が、地面からたちのぼって、アスファルトのにおいが鼻腔をついた。なまえは、濡れて雫を滴らせる前髪を横にまとめながら、ぶあつい雲が覆う空をみあげる。

嫌な予感がすると思ったときには、すでに遅かった。暗雲が立ち込めたせいで暗く宵口のような空からは絶え間なく、おおきな雨粒がふりおちる。

「………降られちまったな」

げんなりした声色と、それに続く溜息に隣をみれば、同じく雨に降られて濡れたクロコダイル。なまえは苦笑する。せっかくのデートだというのに、こうも浮かない顔をしたクロコダイルをみることになるとは思わなかった

「雨、嫌いなんですか?」
「……好きではない」

ベンチの背もたれに寄りかかりながら、そういうクロコダイルは溜息交じりだった。兎に角、雨をよけられるところをと急いで駆け込んだのは、申し訳程度に屋根がついたバス停で。備え付けの小さなベンチにふたり、詰めるようにして座っている。休日であるせいか、人通りも車の通りも少なく、音といえば、雨音と時折交わされる会話だけ。静かな空間に、なまえとクロコダイルのふたりきり。

クロコダイルは、胸元のポケットからシガーケースを取りだしかけて、ふと、思いなおしたようにしまう。そうしてまた溜息。

「吸わないんですか?」
「こうも湿気ってたらな」

眉を微かに顰めて視線を落とすクロコダイルの様子を、なまえはひっそりと見つめる。その長い指が、唇を物寂しげになぞるのをみて、何故か心臓がどきりとした。誤魔化すように、口を開く。

「しばらくやみそうもないですね」
「ん、ああ……」

気のない返事をしながら、クロコダイルは落ちた前髪を掻き上げる。そうして、ちらりとなまえに視線をよこした。そのまま、視線は外れない。じっとみつめられて、なまえは落ち着かなさに意味のない瞬きをする。

「あの……?」

問い掛けた言葉に反応はなく、不意に両膝の上においていた手に、クロコダイルの手が重ねられる。雨に濡れた、けれど暖かい感触につつまれて、なまえは思わず息をのむ。

小さくひらいた唇を奪うように、クロコダイルが口づけた。瞬間、なまえの頭は真っ白になる。相変わらずうるさい雨音も思考からしめだされ、身体にひびくのは心臓がはやく鼓動する音だけ。

手のひらと同様に、まだ雨の気配が残る濡れた唇だった。外だというのに、人が通るかもしれないというのに、なまえは、遠慮のないクロコダイルに抵抗することができない―――というより、抵抗するということ自体、すっかり頭から抜け落ちてしまったようだった。

小さな濡れた音をたて、クロコダイルの唇がはなれるころには、なまえの頬も思考も、熱く火照るようだった。まともな意味をなす言葉を発することはできず、呼吸だけ繰り返しながら、混乱の原因をみつめると、至極愉快とでもいいだけに、唇の端をひきあげた微笑を浮かべた。

「Dopo la pioggia viene il bel tempo、じきに晴れるのを、待つしかねぇな」

ぱた、ぱたたと、雨の音がゆっくりと鼓膜に戻ってくる。確かにそれは、先程よりも幾分か弱まっている気がした。

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