頬なら親愛

ふあ、とあえて音にするのならそんな様子で、クロコダイルがあくびを零した。

ふたり並んでソファで寛ぐ、夕食後のいつもの時間。わたしはクロコダイルの肩にもたれかかったまま、雑誌を捲る手をとめる。そうして隣に並ぶ、少し目線の上にあるクロコダイルの顔をみやった。いつも通りの表情、けれど、不思議といつもより疲れているようにみえる。

「……ね、もしかして、眠い?」
「ん……」

そうして、これまた眠たげな生返事。視線は手元の書類に落ちたまま。ちらりと手元を一瞥してみても、よくわからない小難しげな数字と英字が並んでいて暗号のようにみえる。けれど、クロコダイルの伏せた瞳はきちんと文字列を追っていて、わたしは感嘆の溜息をもらすばかり。これだけ眠たげなのに、よく向き合えるなぁ、なんて思ってしまう。

「……眠ィな」

ぽつり、とクロコダイルが呟いた。わたしは、ひとり、やっぱり眠いんだと納得した。こうして無防備にあくびをすること自体、珍しい人だ。きっと、相当お疲れに違いない。

「今日は、もう寝る?」

いいながら、わたしはそっと読みかけの雑誌を閉じる。どうせたいして興味をもって読んでいたわけではない。それより、クロコダイルが疲れているのなら、はやくベッドで横になってもらいたかった。けれど、クロコダイルは、首をのばすように傾けて、それからゆるく顔を振る。

「そう、たいした量残ってねェからな。終わらせちまう」

そうして、長くて重たい溜息をひとつ。そんな様子のクロコダイルを、わたしはみつめる。顔色にはでていないけれど、睡眠時間が足りていなさそうだった。いくら身体が丈夫だと、本人がいうにしても心配になってしまう。そんなわたしの視線に気づいたようで、目線だけでこちらをみるクロコダイル。ふ、と表情がゆるんだ。

「……んな顔すんな」

眉が少し下がって、困ったような、仕方ないとでもいいたげな微笑を浮かべると、クロコダイルはこちらに身体を傾けた。そうして、頬にちいさな、やわらかいキスを落とす。

「すぐに終わらせる。……おれだって、なまえと寝るベッドは恋しい」

低められた吐息交じりの声は眠たげでいつになく甘く、わたしの身体に響き、うっとりと眠たい気持ちにさせた。

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