指先なら賞賛

シーザーの冷たい指先を、なまえは両手でつつみこんだ。不健康な生活をおくっているせいだろうか、血色の失せた、雪のように白い肌は、その印象通りにひんやりとしていた。体温であたためるようにつつみこむ。シーザーが身を硬くするのがわかった。表情はどこかぎこちない。指先には不自然に力が込められている。なまえはくすりと小さく笑みを零した。

「マスター、冷え性ですか?」
「はァ?!」
「………なんでもないです」

仰々しく顔を歪めながらシーザーが素っ頓狂な声をあげる。視線があって、逸らされた。頬が微かに朱にそまっている。照れている。なんて初心なんだろうとなまえはひっそり笑った。シーザーは、時折こどものような純粋さを覗かせる。ヒトとの接触に慣れていないのだろうか。肉体を切り刻むこと、肉体に薬を投与すること、人を死に至らしめることには何も感じないくせに。

「マスターの手って、綺麗」
「…………薬品で荒れてんだろ。綺麗じゃねぇよ」
「そうですけど……」

じっと、なまえは視線を手におとして、互いの指を絡め合わせる。シーザーがちいさく息をのむ音が響く。なまえは気にせず、シーザーの手の甲を撫でる。

「爪の形も綺麗だし、」そういって、シーザーの爪を指先でなぞる。
「指もまっすぐ、長くて……、指先が荒れてるのだって」

なまえは、そっと、まるで大切なものを抱くように、ふんわりと優しく握って、シーザーの手を口許まで持ち上げる。

「マスターの、日々の研究のせいでしょう?わたしは、それが綺麗だと思います」

そうして、指先にちいさなキスをひとつ。いたわるような優しいキスだった。

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