Wデート÷2÷2

※注:Dolceのクロコダイルが登場



「今日は夕方、人が来るから夕食は準備しなくていい」とミホークがなまえに声をかけたのは、朝のこと。なまえは出掛ける支度の手を止めて返事をする。

「え、人が来るんですか?珍しいですね」

ミホークは、優雅にコーヒーをひと口飲んだ。まったく焦る様子はない。

「旧友だ。所有している不動産の運用を幾つか任せている。おれが持っていても腐らせるだけだが、上手いことやってくれていてな、たまに報告がてら寄っていく」

顔をあわせることもあるかもしれないが、顔が怖い。一応、心の準備をしておけ、と真面目腐っていうミホークが冗談をいっているのかなまえにはわからなかった。けれど、出勤時間も迫っていたためそのまま、家をでた。








「ケーキとクロコダイルか、珍しい組合せだな」
「まあ、な」

ひと通り、現状報告がすんだ後、土産だ、といいながらクロコダイルがテーブルにおいたのは白い箱。中には可愛らしいケーキが並んでいる。ミホークは立ちあがり、ケーキ皿とコーヒーポットをとりにいく。そのまま振り返らずに、声をかけた。

「何か心境の変化でも?」
「恋人ができた」

それは良かったな、といいながら、ミホークは気にした様子もなく、テーブルに戻り、ケーキを皿にのせる。クロコダイルは、片肘をつきながら、つまらなそうにしている。

「それで、どこのストーカー女に押し切られたんだ?」
「…………てめェ」

無表情だったクロコダイルの眉間に、ぴくりと不機嫌な皺が刻まれる。漏れでた声は低く重い。ミホークは何でもないように返す。

「そう凄むな。実際、無理のある理屈で言い寄られては、追い払うのに苦労していただろう。とうとう根負けしたのかと思っただけだ」
「そういうのじゃねェよ」

クロコダイルは、ハッと嘲笑う表情を浮かべる。しかし、否定する口調は幾分かやわらかく、その様子にミホークは興味深そうに目を細めた。

「そのケーキを買った店の女性なんだ」

その、のところでクロコダイルはケーキを指さす。すでに三分の二はミホークの胃袋へ消えており、驚いたように眉をあげた。ちゃんと味わってるのかコイツ、という疑念の視線を向けるも、ミホークはひと言。

「美味いな」
「だろう」
「ケーキにつられたのか?」
「まさか」
「冗談だ。だが、恋人の料理は何でも美味しく感じるというだろう」
「………随分殊勝なことをいうんだな、そんな相手もいないくせに」
「恋人か?それならいるぞ」

一瞬の空白。それから、顔を歪めたクロコダイルが、信じられないといった様子で唸る。

「…………ハァ?」
「一緒に住んでいる」
「………ミホーク、お前、引きこもりすぎて、とうとういかれちまったのか?ここには何度も来てるが、姿どころか声すら聞いたことねェぞ」

憐れむような言い方に、今度はミホークが心外そうに眉根を寄せた。

「引きこもってなどいない。それに、わざわざ引き合わせることもあるまい。万が一、口説かれでもしたら困る」
「………おい、人を何だと思ってる」
「美女がいたら口説かなければ失礼な常識で生きる国出身では?」

その言葉に、クロコダイルの額に青筋がたつ。テメェ、ともう少しで罵倒するところで、ミホークが飄々とした笑みを浮かべた。

「冗談だ。タイミングが合わなかっただけだろう。クロコダイルが誰かを口説いているところは想像し難い」
「…………だろうな」
「是非紹介してもらいたい」
「断る」
「そんな無碍に断らなくてもよいではないか」

残念そうに呟くミホークを前に、本気をはかりかねるクロコダイル。そのとき、ちょうど、玄関の扉が開く音がした。ミホークの恋人の存在をまだ疑っていたクロコダイルは、本当にいたのか、と秘かに驚く。

「帰ったようだな。あぁ、そうだ、顔が怖いとは伝えてある。安心するといい」
「……余計な先入観を与えるのは金輪際、やめていただこうか」

しかし、その後、笑顔ながらも、怒りに口の端を引き攣らせたクロコダイルの顔は、初対面の人間に小さな悲鳴をあげさせるには充分な程度、怖いというのを身をもって知ることとなる。

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