手は出さずに口だけ

いち、に、さん。スプーンから流れ落ちる、さらさらとした粒を目で追うこと、三回。山盛りの白い粉末が濃い茶色の液体に沈み込んでいく。カップの奥でとけだした砂糖が透明な波を描いて浮かび上がる。ミホークが手に持つコーヒーは液体のくせにどろりと甘く粘っこくみえた。ミルクはいれないで、砂糖たっぷり。それがミホークの食後のお気に入り。

「ミホークさん、あの、それ、コーヒーの味しますか?」

つい聞きたくなってしまうのも、不思議ではないと思う。砂糖のひたすら甘い味しかしないのではないだろうか。ミホークは、質問の意図がわからないというように、片眉をあげた。

「その、いっぱいお砂糖をいれるから、どんな味がするのかなぁと思って……」
「飲んでみるか?」
「…………遠慮しておきます」

隣に座るミホークがそっと差しだしたカップを、片手をあげて拒否した。あの量の砂糖がはいっていると思うと、口をつける気にはならなかった。ミホークは、カップをテーブルの上のソーサーに戻すと、つまらなそうに溜息を零す。

「試してみなければわからないではないか」
「試さなくても、とんでもなく甘そうだというのはわかります」
「…………どうだか?」

わたしの言葉が、ミホークの何かに火をつけたらしい。切れ長の瞳が、キラリと悪戯に輝くのをみた。ミホークの片手が、わたしの腿におかれる。もう一方の手で、置いたばかりのカップをつかむと、三分の一ほど残っていた中身をあっという間に飲みほした。わたしの腿を掴む手に力が込められる。

空になったカップをおいたミホークがわたしの唇を奪った。長い舌が歯列を割って這入ってくる。絡まる舌は、ほろ苦いコーヒーの味と、濃厚な砂糖の甘さ。残滓でこれだけ甘い、コーヒーの甘さは、きっとこれくらいじゃあすまない、なんて酸欠気味の頭で考える。

ぬるりと舌が引き抜かれたと思うと、ゆっくりと唇が離れていく。目の前には、盛大に顔を顰めたミホーク。

「流石に、溶けきらないでたまっていた砂糖ごとは甘すぎた」と文句をいうミホークに、自業自得ではと思うものの、口の中に残る甘い唾液といっしょに喉の奥へと飲み下した。

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