お前のプリンなどこの世のどこにも存在しないよ

ふんわりやわらかクリーム色。つつくとぷるん、と震えるにくいやつ。「口の中でとろける」と評判のプリンが、今晩のデザート。昨日、わざわざ買いに行ったのを、今日食べようとおもってとっておいた。それなのに。

「あれ……?」

プリンが消えている。冷蔵庫に鎮座していたはずのそれが、忽然と。ちらりと振りかえると、ミホークはソファに座って、何でもないように雑誌に目を落としていた。いつもと同じ姿だけれど、そこに何か違和感があった。

基本的に冷静沈着、感情が表情にでないミホークだけれど、無表情にもいくつかパターンがあることが最近、何となくわかってきた。あれは、たぶん「しまった、ばれた」の顔。甘いものに、下手したらわたしより目がないミホークに、とっておいたデザートを食べられてしまったことは、もう何度も経験済みだった。

「ミホークさん……」

名前を呼んで、ようやく気がつきましたといった態度で顔をあげるミホーク。それすらわざとらしく思え、わたしはジィと目を細める。

「どうした、なまえ?」と、それにこたえるミホークは、どこまでもいつもと同じ平静さで。

「わたしのプリン、食べましたよね」
「………何のことだ?」
ミホークは、心底不可解、といった様子で眉根に皺をよせる。

「昨日買ってきたプリンがないんです。ミホークさん、食べました?」

小首を傾げて、ミホークはひと言。
「プリン……そんなもの見なかったが?」

何て嫌な返し方をしてくるんだ、と思ったけれど、ウッと言葉につまってしまう。見なかった、とこんなに堂々といわれたら、嘘と指摘するのも憚られる。

「自分で食べたのを忘れているんじゃないか?」

そんな、とも思ったけれど、あまりに動じないミホークの様子に、ありえるかもしれないと思い始め、口元に手をあて考え込んでいたとき。ふと、肩を小刻みに震わせながら、ミホークが静かに笑っているのをみた。そうしてからかわれていることに気がつく。

「ミホークさん!」
「すまない、まさか、本当に、騙されそうになるとは……」

「明日、美味い菓子をたんと買ってくるから許してくれ」

結局、そのデザートも大半がミホークの腹の中におさまることになるだろうけど、わたしをからかって楽しそうに笑うミホークに、それ以上怒る気にもなれず、仕方なく「いいですよ」と返していた。

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