眠くなる薬

しあわせは、きっと、こんなにおいがする。体温でぬくもった布団にふわりとくるまれて、惰眠を思うがままに貪る休日の朝。これほどまでに幸福な一日のはじまりはあるのだろうか。ふかふかで太陽の気配が奥にのこっている心地がした。

なのに、誰かがわたしを揺さぶっている。ゆっくりと、肩をゆすられて、霧散していた意識が徐々にかたちを取りもどしていく。今、わたしを起こすのなんて、ひとりしかいないじゃないか。そう気づいたときに、声がかかった。いつもと同じように心地良く響く低い声。

「おはよう、なまえ」
「おはよ、うございます……あれ、ミホークさん。朝ですか……?」

うすく瞼を開いたままの、寝ぼけた様子のわたしに、ミホークは苦笑しながら、ベッドの端、枕元の傍に腰をおろした。ミホークの手が、やさしくわたしの前髪を梳く。心地良さに、開いたはずの瞼がまたとろとろと落ちそうになる。

「朝……というより、正確には、正午近い。あまりに気持ちよさそうに寝ていたから、起こすのが憚られたが、流石にな。昼食はどうする?」
「正午、ウソ……もうそんな時間ですか、起きないと……」

そういいながら、わたしの瞼は開かない。ミホークがくすりと笑みを零した。

「コーヒーをいれてこよう」
「すみません、お願いします……」

いうなり、もぞりと寝返りをうって、ふとんにくるまったわたしに「そんなに寝たら、今日の夜は眠れないかもしれないな」と、ミホークは呆れたような苦笑まじりの呟き。

いえ、きっと、あなたが隣にいたらぐっすり寝られます。そう思いながらわたしは、いつまでも、しあわせに包まれて、うとうとと微睡んでいた。

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