21

酷く自己中心的になまえを抱いた。無差別の暴力、それの何が悪いと理性は告げる。それなのに、どこか腑に落ちない。本当に考えていることは、そうではないだろう、と。おれは、いったいこいつをどうしたかったのだろう。

布の下に隠れていた穢れのない白く柔い肌に、思わず歯をたてたら、なまえが声をあげた。その声が、おれの中でどこかに火をつけた。本能の赴くまま、貪るようになまえを抱いてしまった。ヒトとしてではない。オンナとしてではない。まるで道具を扱うかのように。痛い、ごめんなさい、ごめんなさい、と、謝罪の言葉を繰り返し口にするなまえの声も耳に入らなかった。この小さく震えている生き物を、自らの存在で埋めつくしてしまいたかった。

気づいたら、小さな双眸を閉ざして、なまえは意識を失っていた。泣きはらした目は醜く腫れ、涙やら汗で、顔は見るに堪えない状態だった。きつく噛みしめていたのだろう、唇に傷がついている。体の至るとこには、俺がつけた紅い歯型がついていて、いくつかは血がにじんでいた。両腕の拘束は、乱れていているものの、いまだにきつく縛りつけている。両足の間からは、鮮血がみられる。酷い状況だ。

ひとつ、長い息を吐いた。いったん自分を落ち着かせなければならなかった。口元が寂しく、愛飲する葉巻に火を灯し、ベッドの端に腰掛けた。

拘束をといてやる。暴れたせいもあるだろう、跡は痣になり、血がにじんでいた。眉をしかめる。暴力には慣れている。弱肉強食、力が世界のすべてで、ここまで生き抜いてきたのだ。絶大な力を持ち、場合に応じて賢く奮うのが、賢者のやり方だ。一度はそれを総べる術を得たとおもった。それなのに、こうして衝動に任せて、必要もないか弱い相手にふるってしまった。そんな自分に微かな苛立ちを覚える。

なまえといると、調子が狂わされる。それを心地良く感じることも、今のように不愉快に感じることもある。つまり、嫉妬に駆られて我を忘れてしまった、これはそういうことだろう。

なまえを、シーツにつつんで抱きかかえると、洗面所まで運んだ。タオルに湯をひたして、丁寧に体をふいていってやる。なんと弱い。弱さ、それは自分が忌み嫌うものではなかったのか。それから、再びベッドに卸す。乱れた髪を、指で梳いて整えていってやる。綺麗に洗濯されたタオルで体を覆ってやってから、人を呼んだ。




いくぶんもせず、部屋にやってきた女は、なまえの惨状に息をのむ。

「いくつか傷から出血している。頭も打っているようだ、手当をしてやってくれ」と、簡潔に告げると、女は放心状態からかえる。

「はい、ただいま……!!いま救急手当をお持ちします」

そうしてパタパタと足音をたて部屋をでていった。包帯やら氷やらガーゼやらを抱えて戻ってきたら、手際よく傷口に手当を施していった。そうして、見た目だけはいつも通りの服につつまれたなまえが、ベッドの上に横たわっている。汚くなったシーツや、ビリビリに破かれた服は捨てるように指示した。痕跡は全て消しておきたかった。

すやすやと眠る顔を見おろす。後悔はすべきものではないし、していない。

だが、その顔を見つめていると、何か苦いものが胸の中にこみあげてくる気がして、今日はなまえとともに眠る気になれなかった。なまえは、まるで何事もなかったかのように眠っているけれど、少し前まで、この顔は涙や諸々で覆われ、目は赤く腫れ、みれたものではなかった。なまえをそうさせたのは俺、その事実をつきつけられる気がした。

コートを羽織り、踵を返す。その日はどこか外で過ごすことにした。

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