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※若干の性表現・暴力表現あり



抱えられて、レインディナーズへと帰還する。ミス・オールサンデーと呼ばれた女性は、いつの間にか姿を消していた。こんなに張りつめている空気のクロコダイルと二人きりになってしまい、いっそ気絶してしまえたらと思う。腕の拘束はとかれず、そのまま抱き上げられると腕の中にかかえられたままクロコダイルへの私室へと連れていかれる。あの後、彼はひとことも発しない。無言かつ無表情で、何を考えているのか、全く予想だにつかない。ただ、とても声をかけられる雰囲気ではなかった。先ほどまでのクロコダイルの、氷のように冷たい視線を思い出して身震いする。

クロコダイルがわたしを奪い返しにきてくれた瞬間、確かに助かったと思ったのに、再び体が強張る。

ついたら、まるで荷物のように勢いよくベッドへと放り投げられる。自分の拘束された両手が顔にぶつかって思わずくぐもったマヌケな声がでた。

ひっくり返されて仰向けにされる。左手の鉤爪がふりおろされたとおもったら、拘束具はそのままに、乱暴に私の衣服を切り裂いた。

「あの男、どこに触った」

クロコダイルが、いたって平静に、それでいてどこか背筋に寒気が走る声で聞いてくる。彼の怒りが大気を震わせているような気がした。

「どこにも、なにも、なにも、あ、ありませんでした」

舌がうまく回らず、何度も噛みながら、たどたどしくいうものの、クロコダイルの耳にははいっていなかったようだ。何もなかったというなら、嘘になる。聡い彼は、そんなことすでに察しているのだろう。


乱暴にコートとスーツを床に投げ捨てる。いつもは、あれだけ丁寧に扱っているのに。冷静に見えて、腹の底ではそんな余裕もないほど怒っているということだろうか。あっという間に、肌蹴た上半身が晒される。普段はあまり見る機会のない、彼の肢体。

大きな手で髪をつかまれ上を向かされると、乱暴に口づけられた。激しくて痛い、乱暴な口づけ。

「お前は、おれのものだからな」掠れた、低い声で、刷り込むかのようにクロコダイルが呟く。わたしは、何度も頷く。それは、痛いほど身に染みた。もう彼の所有物なのだ。逃げだす意欲も湧かなければ、逃がすつもりもない相手から逃げられようもない。狡猾で屈強な捕食者に本気で狙われたら、ひとたまりもない。そんなこと、わかってる。

何度も、何度も口づけられた。所有印を押すかのように、時折歯をたてられて、その痛みに体が震えた。首筋を、クロコダイルの唇が這ってゆく。乾燥した、しかし肉厚なそれは、所々に紅い跡を散らしていった。両腕は固定されたまま、頭の上に持っていかれおさえつけられている。体を隠すものは何もない。羞恥心に、混乱に、恐怖に、気が狂いそうだ。肩口を強く噛まれると、思わず声があがる。痛いのか、熱いのか、一瞬判別がつかなかった。その声に反応したようで、クロコダイルが顔をみつめてくる。口元に、残虐な笑みが浮かんでいた。視線がかち合う。その瞳の奥には、確かに熱情が感じられた。

―――――あぁ、わたしはもうだめだ。そこで思考を放棄した。


なんて散々な日なのだろう。人生の一大事ともいえる事件が、こんなに立て続けに起きるなんて。体が貫かれたその瞬間、痛みで脳内が真っ白になった。意識が飛びそうになったが、直後の割れるような痛みで現実へと引き戻される。泣いて、声をあげて、痛みに耐えて、許しを請うて、その晩は、そうしていつの間にか気を失っていた。

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