-holic

初めて重ねた肌は、おもったよりもずっと滑らかで、抱きしめられると熱が伝道するように皮膚に移った。ふれあう肌はいまだ汗に火照り、熱がひくには時間がかかりそうだった。それなのに、スモーカーはわたしをすっかり抱きしめて、決して離そうとも、距離をとろうともしなかった。何かを噛みしめるように口も開かずにただわたしを胸に抱いている。濃い葉巻のにおいと微かな汗のにおいとが交ざり合った、スモーカーのにおいがする。

照明をすっかり落とした闇の中、硬そうな身体が月光にぼんやりと浮かび上がっていた。昼間、惜しげもなく曝けだされている身体は、夜闇に白くぬるりと妙な色気を醸しだしていて、騒めく胸をさらに落ち着かなくさせる。

頼りない新月だけが浮かぶ暗い夜でよかった。もしこれが満月で、スモーカーの姿が明瞭にみえていたらとおもうと、居ても立っても居られない気持ちになる。逃げだしたい、あるいは、顔がみえなくてすむように縋るように抱きついてしまいたい。

何も言わずに、わたしにじっと視線を注いでいたスモーカーが身体を捩り、その武骨な指が、額をなぞり垂れる髪をよけて耳元を撫でた。不器用ながらも柔らかい所作の心地良さに目を細めると、スモーカーが微かに吐息を零して笑った気配がした。思わず閉じかけた目を開いてみると、真面目な顔をしたスモーカーがそこにいた。人を射抜くような鋭い視線に胸がどきりと跳ねる。真剣な雰囲気に戸惑い、先に何が待つのかと、緊張しながら視線を受けとめた。けれど、紡がれた言葉は思いもよらないもので。

「……好きだ、なまえ。順序が逆になっちまったが、おれと、付き合ってくれ」

――クソッ、こんなはずじゃなかったんだが、とひとり吐き捨てるようにいう彼は、恥ずかしげでもありバツが悪そうでもあった。視線が逸らされた目元が、微かに朱に染まっている。だが、戻った視線は変わらずに強く、こちらの心の底まで覗きこもうとする必死さがあった。

「なまえの口から答えが聞きたい。今さらと、笑うかもしれねェが、実感が欲しい。なまえを独占してもいいんだという、実感が、」

全身の血が騒ぐ。心臓が熱く脈動している。さっきは、スモーカーの姿がみえなくて、よかったと思ったけれど、みえてもみえていなくても、同じことだと気がついた。

スモーカーの、葉巻の渋いにおいがする。身体のにおいと体温と交ざり合って、濃い彼のにおいがする。脳髄にまで染込んで、決して消えゆかないスモーカーの強い煙のかおりが内側から身体を滾らせている。

熱を孕んだ煙に酔わされるように、わたしがスモーカーに愛を告げたところで、幾分乱暴な口づけが施された。そうして、ことばも理性も押し殺され、わたしは再び、ただ彼という存在に浸ることとなる。

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