深淵をのぞく

エニエスロビーは、色で喩えるならば白だった。潔白の象徴であり清廉な正義の棲み処。沈まぬ太陽。永遠に続く白夜のため、薄い白明りに包まれた世界が支配している。

その中で、ロブ・ルッチは黒だった。白の中で浮かび上がる漆黒。端然と佇む姿は静謐であるが、累卵の危うさがあった。ひとつ違えば、鋭利な牙を剥き肉を裂くような、不吉な雰囲気を纏っていた。それなのに、みるものを惹きつけてやまない蠱惑的な引力がある。怖ろしいと思うのに、気づくと、灯に魅せられた虫のように、ふらりと視線が寄せられてしまう。

窓から射しこむ白い陽光を背に、ソファの上で、ルッチがなまえに跨っている。感情を移さない、それでいて、鋭く澄んだ強い瞳が、なまえを射抜いている。形の良い唇が、吊り上がるように弧を描いた。

「なまえ、お前の視線には、気づいていた」

低めた甘い囁き声が、ふたりきりの空間に響く。なまえは、背筋に寒気に似た痺れが走るのを感じた。切れ長の双眸が、ゆっくりと細められ笑みの形をつくる。

「いつ捕らえてやろうかと、そればかりを考えていた」

ルッチの片手が、なまえの視界を塞ぐように降りてくる。その指先の冷たさに身体を震わせながら、なまえは、視界が闇に堕ちていくのを感じた。

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