addiction

ふたりきりで過ごす初めての夜。なんて静かなのだろうと思った。いまだに降り続く雨が、すべての音を吸い込んでしまっているのだろうか。やけに心臓の音がうるさく聞こえる。それは先ほどから、高鳴るばかりでこのまま壊れてしまうのではないかと思えた。

燻るような雨の中、こくりと頷いて返事をすると、スモーカーは瞳を鋭く光らせ噛みつくように口付けてきた。夜露の冷たさを忘れるようなキス、その最中に、熱い吐息にのせられた告白を受けた。熱に浮かされたような状態で、わたしも、と小さく返すと、骨が軋むほど抱きしめられ、もう一度、好きだ、と彼は呟いた。

熱い口づけから解放されると、幾分か強引に手をひいて連れられ、いま、こうしてスモーカーの自室にいる。部屋にふたりきり。わたしはおおきなベッドの上で座っている。緊張で、落ち着かなかった。雨にしっとりと濡れた服は、肌に張りついて体温を奪っている。冷たい。けれど、脱いでしまう勇気はでてこない。

ベッドが軋む音。スモーカーが、ベッドの上でにじりよる気配がした。視線をあげてスモーカーをみると、胸がどきりと跳ねた。雨に濡れぼそった白シャツは、乱雑に床に脱ぎ捨てられている。立派な身体が夜闇にあらわになっていた。わたしは、気恥ずかしさにベッドの上で膝を抱えた。できるなら、シーツの下にもぐって隠れてしまいたかった。

膝に顔を埋めながら、ちらりとスモーカーをみやる。真剣な、それでいて少し強張った顔をしていた。彼の唇は、日ごろ愛飲している葉巻を挟んでいなかった。スモーカーの呼吸のたびに揺れる火種も、ゆらゆらと立ちのぼる紫煙もいまはない。ただ、スモーカーだけが目の前にいる。じっと視線を注がれているのがわかる。それに反応して全身の血が騒ぎ、頬に熱は集まった。

バーという狭い空間の中で、幾夜か連れ添って、静かに過ごしたことはある。だが、スモーカーとこうしてふたりきり、暗闇の中にいるというのは、初めてのことだった。

スモーカーが、腕をのばして、肩に触れた。熱い手のひらがわたしを掴み、引き寄せる。わたしは、しなだれかかるようにスモーカーの胸に身体を預けた。こうして、直接肌に触れるのも初めてのことだ。雨に濡れた気配をのこす、湿った肌。なのに、体温は高く、熱いと感じた。

両腕で抱きしめられる。濡れた服が肌に密着し冷たい筈なのに、熱がおさまらない。耳元で名前を呼ばれ、息を詰めた。低く甘い囁きが、鼓膜から脳髄を融かしてしまう気がした。

「あんまり、慣れてねぇんだ、こういうのは」

スモーカーが、なおも続ける。

「乱暴にしちまったら、悪ィ」

―――それだけお前が欲しいんだ。欲を孕んだ熱い声が身体にしみると同時に、同じだけ熱い彼の手のひらが服の裾から滑り込むのを感じていた。スモーカーの熱が、わたしの冷えた身体を融かしていく。そこに、たとえようもない恍惚感があった。

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