貴方がいない7日目

酷い喪失感だった。身体中の水分が抜けてしまうのではないかと思えるくらい泣いたのは、記憶がある限り、生まれて初めてのことだった。

朝。ひとり、誰もいないベッドで目が覚めた瞬間、まず襲ったのは頭が真っ白になるような絶望と、それから腹の底に何故かすとんと落ちた「やっぱり」というあっけない感覚。どこかでクロコダイルが姿を消すことをわかっていたんだと思う。ただ、現実の可能性として信じたくなかっただけで。

立ちあがる気力もわかなくて、ずっとベッドに沈み込むように眠っていた。

会社には、なんとか連絡をいれて、休みますとだけ告げた。あまりに弱弱しい声だったせいか、それとも、昨日からずっとうわの空だったせいか、珍しく上司が気遣いの言葉をかけてきたけれど、それにまともに返すだけの余力もなかった。酷い喪失感だった。身体と心の一部が欠けてしまったように思えた。

ミネラルウォーターのボトルが床にいくつも転がっている。食事を摂る気にはならなかった。たった一週間。7日間のこと。口にすると、それだけ、とあっけなく思える期間なのに、クロコダイルの存在はわたしの深いところまですっかり食い込んでしまっていた。陽光に暖められた砂のように、じんわりと底に熱が溜まっている。そのせいで、肺の奥深くまで空気を吸い込んだところで、どろりと生暖かい液体に包まれているかのように、息苦しい。

クロコダイルが来る前まで、どうやって生活していたのかよく思いだせなかった。朝起きても、あの広い背中がみえないなんて、ふわりとかおるコーヒーのにおいがないなんて、仕事に行く前の優しいキスがないなんて。思い出すと、その不在が余計に意識されて、涙が自然と溢れてくる。そうやって泣いて、力尽きて眠って、というのを繰り返して、朝からずっと過ごしてきた。


その何度目かももうわからなくなった眠りが、電話の音で中断された。

ぷるるるるる、と遠くで着信を示す音が鳴っている。最初は無視してしまおうと思った。誰からであっても、どんな用事であっても、今はとても応える気にはなれなかったから。それなのに、忌々しい電話は構わず鳴りつづける。頭に響く嫌な音だった。重たい頭をあげて窓をみやると、日はとっぷりと暮れて暗くなっていた。いつまでもこうしていても、仕方ないということなのだろうか。はぁ、と溜息をついて、いまだに響く電話に応えるために、のろのろと緩慢な動作で立ちあがった。

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