惚れ薬からXXX

おかしい!―――そもそも、発端が、惚れ薬なんておかしい話じゃあないか、いまさらおかしいも何もないだろう、なんてツッコミは受けつけない。あと、クロコダイルさんのような強面が、毎日、わたしを抱きしめてはペットのように愛玩している様子をおかしいといっているわけでもない。ていうか、それはパッと見だけであからさまにおかしいから、あえて指をさして高らかに「おかしい!」と宣言する必要はなかった。それをいうのはわたしではなく、まわりの人の役目だけど、そんな勇気のある猛者は、いまのところ、誰ひとりとしていなかった。

さて、じゃあ、なにがおかしいと騒いでいるのかというと、端的にいってしまえば、「あれ、惚れ薬なんていかがわしいもののおかげでクロコダイルさんがわたしに惚れてるんなら、いい加減効果きれてもいいんじゃないの?」ということだった。

―――社会的に抹殺、監禁されるか、大人しく俺のものになるか選べ。そんな「えっ、それってつまり実質一択……すみませんなんでもありません」という理不尽な告白を、顔を蒼白くしながら受けたのは、いつのことだったろうか。にやりと凶悪な笑みを浮かべたクロコダイルさんと子羊のように怯えるわたしの様子は、どうみても、ロマンティックな告白というより、借金の取り立てだとか借金の果ての身売りだとかいう言葉のほうがぴったりくるけれど、まぁ、とにかく。そんなわけで、クロコダイルさんとオツキアイすることになった。そして、不思議なことに、いまもその関係は継続中である。

わたしを膝の上に抱いて、悪戯に髪をくるくるともてあそんでいるクロコダイルさんとの関係は、正直なところなかなか良好だった。なにが楽しいのかはちょっと理解に苦しむ。理解に苦しむことだらけであり、眉間の皺も深くなるばかりである。でも、こうして甘やかされ続けるのは、最近、嫌じゃない……というよりむしろ、かなり好きだった。だからこそ、気になる。この人、いったい、いつ惚れ薬を飲んだんだろう。いつ飲んだかがわかれば、いつ効果がきれるとかも、わかるんじゃないのかという淡い期待を抱いていた。

効果が切れてほしいとは、最近は思わなくなったけれど、もし効果がきれた瞬間が訪れたとき、クロコダイルさんはきっとゴミ屑をみるような冷たい目をしながらわたしを床へ叩きつけるんじゃない?という勝手な予想をしているので、心の準備をしておきたかった。でも、「クロコダイルさん、わたしが惚れ薬を混入させた怪しいお菓子をうっかり食べちゃったのいつですか?」とは聞けなかった。まず、質問が直球すぎるし、次に、「クロコダイルさんってつまみ食いでもしたんですか?」と思ってることを、間接的に伝えてることとなるからだ。流石にそこまで向こう見ずではない。―――というわけで、外堀から埋めてみることにした。

「あの、クロコダイルさんって、甘いものとか、お好きですか?」

「好きそうにみえるか?」

もしかしたら比類なき甘党なのかもしれないという考えは、思いっきり、嫌そうに、ただでさえ深い眉間の皺をいっそう深くしたクロコダイルさんによって否定された。

「で、ですよねー!」

いよいよもって謎になってしまった。甘いお菓子にまぜた惚れ薬をクロコダイルさんがいったいいつ、どんな状況で口にしたというのだろうか?もはや、寝ているときに無理やり口いっぱいに詰め込んで、ようやく欠片ちょっぴりを飲み込んでもらえるとか、そういうレベルじゃないだろうか。もちろん、詰め込む方は、比喩ではなく、決死の覚悟である。クロコダイルさんの寝起きの怖さは、様式美に値するくらい「あ、寝起きでご機嫌が悪くていらっしゃるのね」というのが伝わる怖さだからだ。ただでさえ怖いのに。

「―――あぁ、あのことか」

なにか思い当たったようにクロコダイルさんが呟いた、その顔に、愉しげな色が浮かんでいた。あれ、これ、なんか嫌な予感がする――これ以上深くつっこむと、あけなくていいパンドラの箱をあけてしまいそうだとおもったので、そこらへんで、賢明なわたしは口をつぐむことにした。

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