beckman

どれくらい昔の話だろう、それは、はじめて酒場で出会ったときのこと。―――うちの奴らが、すまねぇな。煙草の紫煙とともに吐きだされた、苦笑を含んだ声だった。うるせェが、悪い奴らじゃねェ、まァ、大目にみてくれよ。そういって、困ったように眉間を寄せて笑う姿に、すっかり心を奪われてしまった。

そのときのベックマンの、困ったような笑顔をいま、思いだしている。―――まいったな、なまえ、そんな風にいわれたら、我慢できないじゃねェか。

でも、今度は、零れる吐息が肌に感じられるほど、近い距離だった。わたしは、ゆるんだ微笑みを唇に浮かべる。

わたしだって、もう、小娘って年齢じゃないわ。あなたが好きなの、ベックマン。ずっと、好きだったの。告白の瞬間、情けないことに声は震えた。でも、それを悟られたくなくて、きゅっと唇を引き締めた。変わらず、至近距離にはベックマンがとどまってる。鋭い瞳は、笑うと優しく細められる。後ろに撫でつけた髪を、顔を伏せて、物憂げにかきあげる仕草が好きだった。次にあげられた瞳には、初めてみる、胸がどきりとする色が浮かんでいた。

――おれを、本気にさせて、知らねぇぞ?

ベックマンが、そっと顔をよせたから、わたしは震える瞼を閉じて、そうして、甘く優しい大人のキスを享受した。

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