※現パロ。ダメ夢主。
「ねえローくん、世間はクリスマスだ聖夜だジングルベルだと浮かれ騒ぎをしているのに、わたしたちはこんなところで何しているんだろうね」
六畳一間。しがないひとり暮らしのわたしの部屋で、いま、わたしはローくんとふたりで鍋をつついている。
「知るか、お前が誘ったんだろう」ともぐもぐと口を動かしながら答えるのはローくん。もぐもぐしていても、その様子は絵になる。イケメンはずるい、と思いながら、わたしは箸をやすめて返す。
「だって流石に、こんな日にひとりで鍋は辛すぎるし、ダメもとっていうか、来てくれるとおもわなかったというか……、」
かつては恋人達のクリスマス中止のシュプレヒコールを叫び飲み明かした友人達は年を重ねるごとに、ひとりひとり、幸せそうな微笑みを浮かべながら、「その日は、ちょっと……」と思わせぶりな断りをいれることが多くなってきた。あまり何をするのか詳しく聞くと、火傷するので「あ、そっか、うん、よかった、そっか、」と中途半端な笑みを浮かべながら、ものわかりのいい感じで引き下がる。そんな茶番を何回繰り返したことだろうか。
こんな寒い日のことだから、彼氏とふたりで暖めあってるに違いない。心も体もぽっかぽかになっているに違いない。くそう、ぽっかぽかだ。そう思いながら、ヤケクソ気味に鍋にお肉を追加して、ローくんにごはんのおかわりを聞くと、ん、という返事とともに茶碗が差し出される。よく食べる。流石、男子。
ほかほかと炊飯器からあがる湯気を顔に感じ、うん、わたしもぽかぽかしてるクリスマスを過ごしていると思った。むしろお腹の底からぽっかぽかだ。鍋のおかげで。
白米を盛った茶碗を手渡すと、ローくんは少しだけ頷いてから、「そんなに一人がいやなら、実家に帰ればよかったじゃねぇか」と、至極ごもっともな意見をいう。真面目な顔でいわれると、うっ、とつまってしまう。そうですよね。
「年明けに再試がね、あるから、準備を……」
「再試、なんでそんなの受けてんだ」
再試をまるで、新種の生物を呼ぶような慣れなさをもっていうローくん。ごめんね、再試というのが地球上には存在するんだよ。
「ほら、留年はちょっと、したくないし」
「違う。おれは、再試をすっぽかさないわけを聞いているんじゃない、なぜそんなの受ける羽目になっているのか聞いてんだ」
「………そんなの聞かないでも察してよ」
「……勉強、みてやろうか」
可哀想なものをみる憐れんだ目でローくんがいってくれる。その申し出はありがたいけれど、自業自得の結果につきあってもらうのは申し訳ないので丁重にお断りした。眉目秀麗なくせに成績優秀でもあるから、ずるい。天はローくんに二物を与えたもうた。ふと、ある思いが胸の中に浮かぶ。
「ていうか、ローくんなら、こんなさもしい聖夜を過ごさなくてもなんとかなったんじゃない?」
そう、なんでわたしの友達をやってくれているのかわからないくらいローくんはモテモテだ。女の子だって選り取り見取りだろう。むしろ、一晩限りでもいいとかいう子すらいそうだ。なのに「別に」とだけいって、こちらを一瞥すると、またもぐもぐ咀嚼しはじめてしまう。むっ、もしや、こやつ、己の魅力に気づいていないなと思い、言葉をつづける。
「だって、ローくんって、背も高いし、カッコいいし、それなのに頭もいいし、なんだかんだいって面倒見いいし、優しいし、女の子、ほっとかないでしょ……って大丈夫?」
途中で盛大にむせたローくん。背中をさすってやる。いったいどこにむせる要素があったんだろうか。「なまえ、お前な…、」と涙目になりながらいうローくんは少し可愛かった。けど、その表情を味わう間もなく、背中をさする腕を掴まれる。
「………おれは、今日、なまえとこうして過ごせて、良かったと思ってる」
真剣な顔に真剣な声だった。息を整えるように、ローくんが微かに口をひらく。赤い舌が覗いて、唇を湿らすように舐めた。ローくんが、こちらを見つめている。わたしはそれに、体だけでなく心までぽかぽかになる聖夜の到来を予感した。