序章

ヒューマノイド。human(人)と接尾辞-oid(のような、もどき)によってつくられた造語であり、直訳すると「ヒトもどき」。まさに、人のようであって、人ではない。そんなヒューマノイドという存在が現代よりさらに身近になった時代の話。



某国の技術者がもたらしたブレイクスルーは、『強い人工知能』を実現せしめ、歴史を変える技術的特異点となった。そうして生まれたヒューマノイド。人々は、この新たな『人類』の誕生に歓喜した。暫くの間、ヒューマノイド産業は盛況を謳歌することとなる。

ヒューマノイドをよりヒトらしく、より高性能にしようと皆、躍起になった。その超人間的知性に警鐘を鳴らす学者も根強く存在したが、如何せん、ヒューマノイドは金を生む。莫大な投資に利益に魅せられた資本主義精神が先導する形で、技術革新はさらに進んだ。

そうして、存在感を増したヒューマノイドが人の社会に溶け込んでいくのに、そう時間はかからなかった。人がヒューマノイドを支配する社会基盤が整備され、人類とヒューマノイドとの共生が実現されたかに思えた。


だが、そこで、だれかが気が付いた。

「なぁ、この『機械』が、『人らしく』あるのは必要な機能なのか?」と。


まるで、憑き物が落ちたかのようだった。投じられた一石は、まずさざ波をたて、それからおおきな波となって世間を騒がせた。止められない濁流となったその動きは、人と機械の分化を加速度的に進ませた。結果として、ヒューマノイド産業は凋落を開始する。

ヒューマノイドから、人らしくあるために備え付けられた『無駄』がそぎ落とされていく。多様化が進んでいたヒューマノイドが画一的になっていく。結果、人らしさをたっぷりと残す旧型ヒューマノイドの多くは廃棄処分となった。人のように「不完全」、それゆえ機械としても「不完全」だからだ。

だが、そんな旧型ヒューマノイドではあるが、いまだに隙間産業で細々と生き残っている。たとえば、いくらかの人らしさが必要とされるサービス産業。その中でも、特筆すべきはヒューマノイドの恋人派遣サービスであろう。適度に人らしく、だが人ではないヒューマノイドは、手軽に寂しさをつぶすことのできる良い相手となった。いずれにしても、斜陽産業にはかわりはないのだが―――それでも、確かにまだヒューマノイドは社会に混在していた。


そんな社会にて、ある女性のもとに、あるヒューマノイドがやってくる。そんなふたり―――いや、一人と一体というべきか―――が、一週間、生活をともにする、これは、そんな話である。

back


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -