娼婦の手記

とてもよくしてもらっても、恋に落ちてはいけない。
これが、私が娼婦になってまず、先輩から教わったことだった。

他にも、いろいろなことを教わった。例えば、必ず避妊をさせること。口にキスをしてはいけないこと。それから、暴力を振るわれたら、大人しくしてはいけないこと。調子に乗らせないように、彼ら以上に凶暴にならなければならないときもあるってこと。引き際を心得ること。奉仕すること。

そのなかでも、『とてもよくしてもらっても、恋に落ちてはいけない』

この教え以上に、私を不必要な怪我から守ってくれた教えはあっただろうか。

身体だけ差し出せばいい、なんて思われているけど、娼婦をやるのだって意外とたいへんなのだ。すぐに消費され、飽きられ、捨てられてしまう。必死にもなる。

今日は足がすっかり遠のいているお得意様………というより、うちのマスターのお得意様で、貢ぎ物の一環として時々お相手しているところにいく。相手は、なんと砂漠の英雄、サー・クロコダイル。そんな彼の相手をできるだけで、私としても光栄だ。まわりからだって、羨望の目でみられる。悪い気はしなかった。

でも、そんな彼は最近、マスターの申し出をすげなく断ることが多くなってきた。マスターは、慌てふためいてしまってたいへんだけれど、実際に肌をあわせている私にはなんとなくわかる。誰か良い人ができたんだろう。

その人だけに愛情をささげたいような、大切な誰か。

そうなると、もう娼婦はお払い箱となってしまう。サー・クロコダイルが大切にしたい誰かができたのなら喜ばしいことだろう。あの、冷たい瞳をした人は、私と同じ「側」だと思ったのに。それだけは少し寂しかった。

『とてもよくしてもらっても、恋に落ちてはいけない』

私を守ってくれたこの大切な教えが、いまはとても胸にささる。こうして、ひとり、また、ひとり、私をここにおいていくのだから。

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