Happy halloween


「ミホークさんっ!トリック・オア・トリートっ!」
「とりっ………………なんだ?」

私は、帰宅してすぐ、リビングのソファでくつろいでいたミホークにまっしぐらに向かう。

それから、最近、どこにいっても街を飾る言葉をかけてみる。ミホークは、突然のことに、何をいわれているのか全く理解できないといった様子でかたまっている。

「トリック・オア・トリートですよ!お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ、ってその顔、…………もしかして、知らなかったですか?」

黙りこくってしまったミホークは、腕組みをして、怪訝そうに、眉をひそめている。

「ハロウィンですよ、ハロウィン!」

あまりの通じなさに切なくなってきたけれど、さすがにそこまでいうと、ようやく合点がいったようすでミホークは頷いた。

「あぁ、街では、そういうこともやっていたな、そういえば」
「もしかして気づいてなかったんですか?」
「興味がないことは視界にはいらない性質なのでな。世の浮かれ騒ぎには興味がない」
「じゃあ、ハロウィンも、」

そこで言葉をとめて、伺うようにミホークをみやる。ミホークは、やれやれと、溜息をつきながら答えてくれた。

「聞いたことは、ある。だが、なんなのだ、そのとり……なんとかは」
「だから、お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ、ですよ」
「お菓子をくれなきゃ悪戯するのか」
「お菓子をくれなきゃ悪戯するんです」

一瞬、沈黙が場を支配する。

「ふむ………それは、随分と一方的な要求だな。荒唐無稽である上、一貫性もない。なぜ、いたずらかお菓子の二者択一なのか、各々の定義は何であるのか……疑問は残るが、回答を拒否する。…………………いや、待て」

いつもどおりの冷静沈着な対応に、肩をがっくり落としていたら、ミホークが自らの言葉を遮るように止めた。どうしたことかと、不思議に思ってきいてみる。

「なんですか?」
「俺はいま菓子をもっていない、ということは、つまり、ハロウィンのルールによると、なまえは俺に悪戯をするということか?」
「えーと、…………そういうことになりますね」
「そうか」


ミホークは、静かに呟いた。なんだか、嫌な予感がする。しばらく目を伏せ、考えに耽っていたようだけれど、目線をあげてこちらをみる。すると、組んでいた腕と足をほどいてゆったりとソファに座りなおした。その様子はまるで「さぁ、悪戯をしろ」とでもいわんばかりだ。

いやいや、まさか……と思いながら、一応、確認のためにきいてみる。

「あの、なにしてるんですか、ミホークさん………?」
「なにをいっている、俺に悪戯をするのだろう?」

さも当然のようにいわれ、混乱してしまう。というか、腕組み解いたからって、あなたに隙がないのは変わらないのですがどうやって悪戯すればいいんでしょう、そもそもそんな無表情ですけどあなた悪戯されたいんですか、と内心つっこんだけれど、そんなこと、ミホークが知ったことではない。

こうなるとミホークが頑固であることもしっているので、しょうがない、と思い慎重にソファの近くに足をすすめる。ミホークの視線が痛い。うわぁ、この人絶対大人しく悪戯される気ないよ、とは思うものの、しょうがない。しょうがないだらけである。

言い出した私が悪い、とおもいながらとりあえず計画をねる。ここはべたに脇腹こちょこちょだろうか………どうせ無理だろうけど……と、投げやりになりつつも、膝を落として、えいっと脇腹に手をのばす。

予想どおりというか案の定というか、脇腹こちょこちょは達成されず、逆につかまえられてしまった。ミホークの手が片方は手首をつかみ、もう片方は腰にまわされ、そのままふわりと身体を持ち上げて、ミホークの膝の上に横抱きにされてしまう。

とてもそうはみえないのに、しなやかな筋肉に覆われているミホークは、こんなことも無理なくやってみせるから、慣れないうちはとても驚いたし、いまでも驚いてしまう。

「ミホークさんっ……!」
「さて、なまえの悪戯は失敗ということで、次は俺の順番だ。………ええと、」

「…………トリック・オア・トリートです」
「そうだった。では、とりっくおあとりーと」
「お菓子………ないです……」
「知っている。なまえに、ルールに則って“いたずら”をするための口実だ」

そういってミホークは、いたずらっぽく微笑んだ。口もとが緩められても、その金色の瞳は鋭いままで、みつめられたらドキドキしてしまう。ミホークが笑みを消すと、雰囲気がまた、かわった。息がつまるような、それでいて、胸が高鳴るような、不思議な雰囲気だ。


ミホークが、片手で優しく頬をなでる。私はうっとりと目を瞑る。やわらかい唇がふってきた。それは、軽い水音をたてて、はなれる。至近距離でみつめあう。

なまえと、艶のある声で名前を呼ばれて、それから、もう一度、キス。今度は先ほどよりも交わりの深い、熱いキスだった。ミホークのキスは、飄々としている本人からは想像がつかないほど、情熱的で官能的で。



だから、私は、もうハロウィンのことなんてどうでもよくなってしまったけれど、後日、ミホークは「ハロウィンついでに、すいーとぽてとをつくってもらおうか」なんていってて、この人意外とハロウィンエンジョイしてるんじゃないの、と疑問に思ったのだった。

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