愛の定義とは

ドンキホーテ・ドフラミンゴが何かを求めるとき、それは大抵極端な形となってあらわれる。


中途半端な妥協はしない男だった。伸るか反るか、丁か半か、博打のような生き方をする男だった。欲しいものを手に入れるときは、そのすべてを。いらなくなったら、そのすべてを、容赦なく徹底的に棄却する。

また、目的の達成にも全身全霊を賭して尽力する。そういう意味では、真面目な男だった。もちろん、手段を選ぶはずもない。迷いはなかった。己の矜持に従っている限り、それはドフラミンゴにとって正しいことだった。


その苛烈な生き様は、多くの人を魅了したが、巻き込まれる方としては、たまったものではない。それは、ドフラミンゴに熱烈かつ執拗に迫られたなまえの素直で率直な感想だった。適当な理由をつけて、のらりくらりと躱そうとしても、全く逃してくれそうにはない。受け入れるにしても、断るにしても全力で対面しなければならない相手だった。そして、大抵断るという選択肢は真っ向から断られる。「はい」か「いいえ」の二択ではなく、「はい」か「YES」の二択を迫る男だった。


「俺の何が気に食わねぇ」と、ドフラミンゴはいう。金はある、権力もある、実力もある、なまえ、お前の望むすべてを手に入れてやる、というけれど、人の気持ちはそんな簡単に手に入るものではないということをわからない、そんな男のそばにいることを躊躇うのは、フツウの人間のフツウな感覚だった。人は、己の理解の範疇を越えたことに対して臆病になる。なまえは、ドフラミンゴがなぜこんなにも自分に執着するのかさっぱり理由がわからなかった。


世の中の大抵のことは、案外劇的にはおこらない。なまえが把握しえないナニカがドフラミンゴの琴線に触れたのだろう。強いて言うなら、なまえは、ある意味、運が悪かった。

ドフラミンゴが、なんとなく女が抱きたくなったとき、なんとなく好みだと思った女が声が届く範囲にいて、なんとなく声をかけたら、ていよく断られた。その、「知らないやたらめったら派手な男に声かけられて困ってます」とでもいうような心底困った顔に、ドフラミンゴの息子がなぜか反応した。

こいつをもっと困らせたいという加虐欲と、今まで女に困ったことなどないドフラミンゴの狩猟本能になまえが火をつけてしまったことが、有り体に言えば、きっかけともいえる。


それにしても、こと女に関していえば、ドフラミンゴは熱しやすく冷めやすい性質である。にもかかわらず、これだけ執着をみせているとなると、やはり、なまえは運が悪いとしかいえなかった。激しい恋愛のきっかけも、往々にして劇的ではなかったりする。


そうして、なまえはとうとう根をあげた。なんといっても、ドフラミンゴは、交際を断るという選択肢を与えないのだ。ありえない二者択一を突きつけ続けられたなまえは、いつ終わるともしれぬ自然災害を前にして、人が諦めの境地にたっするのと同じように、諦めの境地に達した。仕方がない、と。

それでいいのかと思うが、なまえが求愛をとうとう受け入れたことをドフラミンゴは喜んだ。喜んだ、というより、興奮した。その場でなまえを押し倒して組敷く程度に、興奮した。


ドフラミンゴは、猛獣のようだと、なまえは思っている。手懐けることも躾けることもできない、貪欲かつ凶暴な、己の欲望に忠実な猛獣だ。

そんなドフラミンゴが、なまえの上に覆いかぶさって、うれしそうに舌なめずりをした。紅い舌が唇の隙間から覗いた。嬉しくてたまらないといった顔で、「なまえ、愛してる」といいながらキスをふらすドフラミンゴをみて、かわいい猛獣だと思っていた。


それを人は、絆されると言うことに、なまえはまだ気づいていないが、何を以って愛とするか、定義は人それぞれであるし、まぁお互い幸せならそれはそれでいいんじゃない?というのが、これまたフツウの人間のフツウな感覚だった。

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