甘党な彼

なんとも悪そうな顔だと、なまえは思った。細い眉は不機嫌そうに歪められ、三白眼気味の瞳は、えもいわれぬ迫力を醸しだしている。大柄な体躯はそれだけで威圧感をふりまいているし、さらにいうなら、愛用しているスーツも高級感が溢れすぎて、一般市民の生活の場にはそぐわない。スタイルが良いぶん、華やかで、余分に注目を集めた。映画の中から、キャラクターがでてきたかのように、現実味がない。クロコダイルが街中に立つと、あまりに鮮やかで背景から浮き出ているかのようだった。


淡いパステル調の内装に、ショーケースには飾られた色とりどりの可愛らしいケーキが並ぶ場なら、なおさらだった。兎角、人目をひく。


今日は、クロコダイルに頼まれて、カフェにきている。以前から目をつけていたらしい。そのカフェに、なまえは半ば無理やりつきあわされている。

流石に無遠慮に仰視するものはいないけれど、チラチラと視線を向けられているのがわかる。小奇麗な白い木目調のテーブルと、セットの椅子に、窮屈そうに腰かけているのも、不可思議な光景だった。光がたくさん差し込む、清潔感あふれる店内に、スーツ姿の威圧感たっぷりの男に、普通の格好の若い女。中々に異様な光景だった。普段このように注目を集めることがないなまえは、注がれる視線になぜかいたたまれない心地がした。


一方、目の前のクロコダイルは、黙々とケーキを口に運んでいる。骨董品を鑑定しているかのような真剣な眼差しだが、その矛先は可愛らしいケーキである。これもまた、不思議な組み合わせだった。

「……………おいしい?」

なまえが声をかけると、クロコダイルはゆっくりと目線をあげた。

しばらく押し黙っている。なんと答えるべきか逡巡しているのだろう。ひとことだけ、「そうだな」と呟いた。極めて低い、のびのある美声だが、女性客が大半を占めるカフェの中では異質なものだった。甘いもの好きなことを、頑なに隠していたクロコダイルの気持ちを、なまえが少し理解した、そんな日だった。

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