08:お願いだから、振り向かないで

※現パロ



身体が火照ったように熱くて、なんとなく怠く、泥のような眠気が頭を鈍らせている。

ドンキホーテ・ドフラミンゴが、堆く積る資料を前に、フゥ、とようやくひと息ついたとき、時計の針はてっぺんを過ぎてしばらくしたころだった。睡眠時間は短くても平気な性質ではあったが、もうどれくらいまともにベッドで寝ていないかもわからない。様々な理由が重なってのことだが、まぁひとことでいってしまえば、忙しかった。それなのに、腹の底がどうしようもなく疼く。気分が、落ち着かない夜だった。なぜ、と苛立たしげに親指の爪を噛む。ふっと訪れた思考の空白に浮かんだのは、愛しい恋人の顔。

―――――会いたい。なまえに、会いたい。一度、思考がその方向へまわりはじめたら、坂を転げ落ちるかのように、もうそれしか考えられなくなってしまった。あの身体を骨が軋むまで抱きしめたい。小さな耳を食んで舐めて噛みたい。ふくれた唇にむしゃぶりつきたい。細い手首を掴んで、可愛らしい抵抗を肌で感じたい。下半身に顔を埋めてやって、なまえを啼かせたい。

そうだ、考えてみたら、なまえにもう一週間も会っていない。168時間、7日、一週間もなまえの顔も声も熱も感じていない。ついでに、必然的に一週間も禁欲していることになる。―――おい、ありえねぇだろ、心の中で悪態をついた。そして、そう思うや否や、もう車のキーを掴んでいた。


さて、なまえの家の前まできたのはいいものの、もう夜はとっぷり更け、街は寝静まりかえっていた。思いつきで来たのはいいものの、なまえは寝ているだろう。連絡もいれていない。そもそも、連絡をいれずに思いつきでくることが多すぎたため、なまえから合鍵を渡されてしまった、が、こんな遅くに来襲するのは初めてだった。意気揚々と勇んできたのはいいが、合鍵を取り出して鍵口に挿し込んだまま、しばし逡巡する。

なまえは怒るだろうか。こんな真夜中に叩き起こされて、まぁ、喜びはしねぇだろうな。あぁ、じゃあ、起こさなければいいんじゃねぇか?最悪、寝顔を拝んで帰るのでもいい、それだけでも充分、明日への活力へとなるだろう。

そう思い至り、鍵を持つ手を捻ると、カチャリと静かな音をたてて、扉が開いた。玄関も廊下も暗い。なるべく息を潜めて、靴を脱いで足を進める。狭い1DKのアパート。一緒に住めばいいじゃねぇか、といっても微妙な顔して否定されるのだが。廊下は狭く短く、すぐになまえの眠るベッドへと辿りついた。

なまえは、寝ていた。すやすやと穏やかに寝息をたてている。それもそうだ、平日、明日も仕事だろう。ベッドの枕元にしゃがみ込む。月明りだけを頼りに、じっとなまえの顔を見つめた。久しぶりのなまえだ。たった一週間、と人は言うが、もうなまえの存在が必要不可欠なものとなってしまった日常で、その欠如はあまりに長い。見ていると、今度は触りたくなってくる。触ると、今度はもっとなまえに触れたくなる、抱き合いたくなってくる。先刻感じた、腹の底の疼きが戻ってくる。ザワザワと神経が騒めき落ち着かない。

あと少しで、ドフラミンゴの指がなまえの頬に触れようかというとき、何かの気配を察したのか、なまえが顔を顰めて、それからゆっくり瞼をあけた。

「あれ………?」

目を擦ることもなく、眠たげに瞼を半分閉じた目がドフラミンゴを捕捉する。事態を把握していないため、まぬけな声がでた。瞬きを繰り返した後、なまえはドフラミンゴを見つめ続ける。

「ん……」

そうして、起きているのか寝ぼけているのかわからないけれど、小さな了承の言葉をもらすと、身体を奥にずらしてから、布団の端をめくった。おいで、ということだろうか。

許されてる、と思った。我儘を、愛情を、俺という存在を。愛される、とはこういうことか。暖かい感情が胸の中にじんわりと広がった。背を向けて、また眠る姿勢に入っているなまえを抱き込みたくて、コートを脱いで、いそいそとベッドの中にはいった。


こんな顔、格好悪くてなまえにはとても見せられない。どうか、こちらに寝返りをうってくれるなと、鼻先のあるなまえのうなじに顔を埋めながら、ドフラミンゴはにやにやと破顔させた。どうしようもない疼きに、神経のささくれは、毛糸のように柔らかな感情に受け止められて、そうしてドフラミンゴは、久方ぶりに惰眠にありついた。

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