03:あなたを繋ぎとめるものは

ねぇ、クロコダイル。どうしたら、あなたを繋ぎとめらるんだろう。行かないで、傍にいて、好きなの。でも、わたし、素直にいえないの。だって、どうしたらいいかわからないんだもの。どうしたら、あなたを繋ぎとめられるか、わからない。

「ねぇ、たのしいこと、しない?」

だから、都合のいい言葉を吐いて、都合のいい女になって誤魔化してる、ずっと。


ほんとの気持ちなんて怖くていえない。否定されるのが怖いから。そうして傷つくのが怖い。ほんとの気持ちを伝えて、うざったがられて、離れられてしまうのが、怖いの。嫌われるよりも、無関心になられる方が、嫌。

クロコダイルは、こんな、フツウな女のフツウの恋慕なんて、めんどうくさいって思うでしょう?そうして、もっと気軽に欲望を発散できる女のところにいってしまうでしょう?


だから、偽りの笑みをはりつけて、なにも考えていないふりして。そうして発情してる動物みたいにクロコダイルを誘う。幸か不幸か、身体の相性はぴったりなんだ。肌を合わせると、触れた箇所から熱がうまれて、それが全身にまわって、まるで甘い毒のよう。こんな風になるの、クロコダイルとだけなんだよ。



でも、わかってる。馬鹿だなぁ、わたし、って。そんなことしたって、結局傷つくのに。翌朝、冷たくなったベッドでひとり、泣くことになるのに。


しょうもない私は、今日もしょうもない言葉を吐く。ちゃんと、上手に笑顔つくれているかなぁ?声、震えていないかなぁ。

でも、クロコダイルが私を抱きしめてくれたから、上手にできているんだろう。安堵の溜息をひそかに漏らす。私を抱きしめる腕の強さが、伝わる体温が、うれしい。好き、大好きよ、クロコダイル。いまは、私だけの砂漠の英雄。この想いが、熱とともに伝わればいいのに。









どうしたら、こいつを、なまえを繋ぎとめてやれるのだろう。目の前でゆっくり精神を崩壊させていくなまえを、俺はただ見守ることしかできない。


「ねぇ、たのしいこと、しない?」

似合わない作り笑顔を浮かべて、似合わない台詞を吐くなまえ。俺は、お前を抱く。だがそれは、別に、お前の身体が特段好いからってわけじゃねぇ。愛しいと思っているからこそ抱いてんだ。そうじゃなけりゃあ、同じ女相手に何度も勃つか。

そんなこと、なまえは知るはずもないのだが。そんな薄っぺらい言葉を吐かせているのは、俺だ。好きだと縋って、泣いて、請うたとしても、俺を繋ぎとめられないと思いこんでいるなまえは、哀しい。

優しい言葉は、かけない。かけられない。「なまえ、お前を愛している」など、そんな軽薄な言葉は吐けない。なまえ、お前は、太陽の光を浴びながら平和ボケした顔で笑っているのが似合っている。俺は、少し、この手を血で汚し過ぎた。生きてる世界が、違う。

だけれど、もし、こいつがひと言。たったひと言、俺を愛しているというならば、そうして、泣いて縋るのならば、俺は、お前を攫ってやれるのに。

不安が笑顔に滲み出ているなまえを抱きしめた。繋ぎとめておきたい、なのに、俺の手から逃げて欲しい。相反する感情がせめぎ合う。ふたりそろって、哀しい限りだ。

暖かな小さな身体。その手放せない温もりは、哀しくも甘かった。

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