01:何も怖くないと思っていたのに

※注意
吸血鬼パロの『Rosaceae』の番外編?です。ドフラミンゴ視点。ギャグ。無自覚バカップル。



久しぶりにこっちからワニ野郎の顔でも拝みにいってやろう、と思ったのが運のツキだったのかもしれない。何も怖いものはない、と思っていたけれど、世の中には、できれば避けて通った方がいいことがあることを知った。

少し間があいてしまったが、風邪から回復したというなまえの快気祝いのつもりで、夕飯に誘ったのが、すべてのきっかけだった。

久方ぶりに、クロコダイルとなまえが住む家の扉の前にたち、コンコンとノックをして玄関の前で待つが、いくら待てども、まったく反応はなく。

「(いるのは、わかってんだよ)」

フフッと不敵に笑うと、今度はわざと大きな音をたてて足でドアを蹴ってやった。すると、不機嫌な顔をしたクロコダイルがようやくでてきて、その後ろにちょこんとなまえが控えていた。

額に青筋をたてたクロコダイルが「クソ鳥、てめぇ何しやがる」と、ドスの利いた声をだすから、「居留守かまそうとしたお前が悪い」と返してやった。なんて挨拶だ。

快気祝いの言葉を簡単にのべてから、なまえに土産のワインを渡し、食事に誘ったものの、クロコダイルは、無言で、虫けらでも見るような醒めた目をしながら、そのくせ肌に刺さるような殺気を放っているし、なまえはなまえで、おろおろと、「え、うちで食べてくんですか?それとも外食ってことですか?」と、ぬけてるんだか神経太いんだかわからない質問をしてくる。

なんだかんだいっても、医者を紹介してやったのは俺である。結局、クロコダイルが折れる形で、個室のある高級レストランで食事をとることになった。


前兆がないわけではなかった、と思う。ただ、ここまでだと察することができなかっただけで。思えば、はじめて窓を蹴破って来訪したとき、あの冷酷無情な男がなまえを庇うような行動をとった時点で、気づけばよかったのかもしれない。あ、コイツ、脳味噌だいぶやられてんな、と。

なにしろ、このふたり。自覚してるのか、無自覚なのかは知らないが、ムカつくくらい甘い雰囲気を醸し出してくるのだ。ふたり、というより、主犯はクロコダイルだが。もはや、俺へのあてつけでわざとやってんなと思うようなものから、自然とでてしまったものまで、それはいちゃついて、俺の神経を苛立たせてくださる。


ふとした瞬間になまえの頬や髪を撫でたり、なまえの唇の端についたソースを指でぬぐって、そのまま舐めたり、ちょいちょいアレ?と思う光景があった。だが、流石にクロコダイル。いくら女にかまけていようと、会話は刺激的だし理知的でもあったため、途中からは、いちいち気にしてちゃキリがないと諦観し、フツウに話していたのだが――、


「痛ッ……舌、噛んひゃった……」

食事の最中、なまえが痛々しそうに顔を顰めて口元に手をやっている。瞳にはうっすらと涙すら浮かんでいた。それをみたクロコダイルが、呆れたような溜息をひとつ。

「仕方ねェやつだな。ほら、なまえ。口あけて、舌だせ」

疑問符を顔に浮かべているものの、なまえは素直に従った。クロコダイルは、なまえの顎に指をあてて、固定すると、べろりと己の舌をだして、それを舐める。空気が凍った。そのまま、ぱくりとなまえの口を食べるように深いディープキス。

―――いやいやいや、これは、やばいだろう。個室とはいえ、何してんだこいつら。

そう思った俺は、珍しくも、ここにいる誰より常識的だったと思う。

なまえが、微かに吐息をもらすと、それにのって甘い香りが鼻腔をついた。随分深く噛んだようで、血が滲んでいるのだろう。口内に染み出た血液を、あますところなく舐めとるように、クロコダイルがキスをしている。俺が、思わず呆気にとられていると、クロコダイルがなまえの唇を解放した。目を細めて、うまそうに己の唇を舐めとる。本能的に、うらやましい、と思い、喉がなってしまった。ついなまえに目をやると、こちらは赤い顔をして潤んだ瞳でクロコダイルを睨みつけている。恥ずかしいのか、どこか怒ったようにクロコダイルの顔をみてから、慌てて様子を伺うように俺の顔もみて、それから文句を口にした。

「ちょ、あの、急に、な、なんですか……!」
「はァ?応急処置だろう?」

何をいってるんだコイツは、とでもいいたげな顔をして、クロコダイルは小首をかしげながら、そういい放つ。すると、なまえもなまえで、あぁ、止血か、そっかぁ、と納得しそうになっていて。

――――オイオイ、なまえちゃん、それ、だいぶ、クロコダイルに毒されてるぜ。

何もいえずに固まっていたら、不覚にも、「―――続きは、帰ったら」と、クロコダイルが甘く囁く声を耳が捕捉して、あ、俺もう帰りたい、と柄にもなく逃げ出したくなった。

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