過去clap

「………私のぶんも、いる? 」

ちょっとした用事で百貨店にいったついでに、お土産にケーキを何個か買ってみた。ふだんは買わないような少しお高めの有名ブランドのもの。
ちらりとこちらを見やった後に、目線を外してこくりと頷いた。物凄い顔を顰めているが、照れ隠しだろう。大男がケーキひとつで何恥ずかしがっているのかと思うけれど、確かに、厳つい見た目に、こじんまりと可愛らしいケーキ。これは、少し、いや結構、異様な光景かもしれない。

「クロコダイルって、甘いもの好きだったんだ。知らなかった」
そういいながら、私の分のケーキがのった皿を手渡してやる。すると、凶悪な目線で人のことを睨みつけながら受け取った。ケーキあげてるのはこっちなのに、と文句もいいたくなるような強面がくり出す攻撃的な視線だったが、照れ隠しだと思えば可愛いものだろう……たぶん。

「……悪ィか」
クロコダイルらしくない、体裁が悪いようなもごもごとした声でぼそりと返される。いたって不機嫌そうだ。ケーキをあげたのはこっちなのに。
「ううん、でも、知らなかったから。なんでいってくれなかったの? 」
「………必要がなかったからだ」
「そっか」

そうつっけんどんにいわれると、そんなシンプルな返答しかできなくて。手持ち分沙汰で、ポットから紅茶のおかわりを注いでいたら、口をつぐんでいたクロコダイルがぽつりとひと言。

「………昔、一度、笑われた」
それだけの理由で? と思ってしまったけれど、同時にどこか納得がいった。プライドが高いこの人のことだ、その一度がきっと耐えがたかったのだろう。そして、その笑った相手の無事を祈る。

「そっか。じゃあ、なんでまた、隠さないことにしたの? 」
「お前にとって、いまさらだろう」

いまさらって、どういうこと? そんな疑問が浮かぶ。いまさら? クロコダイルにとってはみせたくない、格好悪い姿をみせてもいまさら気にしないってこと?

そこまで思い至って、にんまりと喜びの笑みが浮かんだ。

なんだ、これは喜んでもいいのだろうか。このどうしようもなくプライドの高い男が、それほどまでに心許してくれているということか。

そう考えると、大きなごつい手で小さなフォークを器用にあやつり、黙々とケーキを口に運ぶ目の前の大男が愛おしくてたまらなくなった。

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