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だが、入り口を見ても、そこに人影はなかった。
「よかったな、御主人サマの御出迎えだ。予想より早ぇじゃないか」

突然、後ろから、抱きとめられる。でも、顔なんか見なくても、誰が背後にいるかなんてもうわかっていて。
「お前があんな登場をした後で、この俺が、のうのうとクソ鳥をのさばらせておくとでも? 随分、舐められたもんだ」
聞き慣れた、心地良い低い声が響く。その声は、いつもと違って怒りに震えている。

「フッフッフッ、ちょっとちょっかいをだしただけだろう」
「……なまえに、何をした」
「何もしてねぇよ、なァ、なまえちゃん? ご覧のとおり、ふたりで美味しく夕食を食べてただけだが。傷ひとつついてねぇ」
猫なで声で呼ばれて、びくりとする。私を抱きしめるクロコダイルの腕に力がはいった。

「凝った真似して攫いやがって。くせぇお前のにおいが移る」
「―――クロコダイル、お前だって似たようなもんだろ。俺たちゃ、所詮同じ穴の狢なんだ。嬢ちゃんに、何も伝えてなかったらしいな? 過去も正体も、何もかも。隠したところで、今さら、人と同じように生きれるものか」

「隠しちゃいねぇよ。だが、お前のように恥もなく晒す品のなさを持ち合わせていないだけだ」
「品がない、か。相変わらず変わらねぇな、そのプライドの高さ。なぜそんなものにこだわる? 俺たちゃ、言ってしまえば、動く死体だろうが。気位なんて、必要ない」
「ッ……それすら保てねぇようじゃ、いったい何になる」

クロコダイルが、重たい声をだす。どうしても触れられない闇を抱えているのは、なんとなく気づいていた。力があって、頭だって良くて、この世に手に入れられないものなんてひとつもなさそうなのに。

「俺には、さっぱり理解できねぇよ。この世界、勝者が正義だ。俺たちが何者かなんて、関係ない。何を食物にしようが、そんなこと、別にどうだっていいだろう」

「前にも言ったな―――お前を否定はしねぇよ、ドフラミンゴ。だが、絶望的に気が合わねェだけだ」
「残念ながら、そのようだ。フッフッ。気が向いたら、いつでも遊びに来い」

「………帰るぞ、なまえ」
そうして、クロコダイルは私を抱えた。帰るまでの間、クロコダイルはずっと押し黙ったままだった。私も、なんとなく声をかけられなくて、その日はベッドに入ろうともしなかったクロコダイルにひと言「おやすみなさい」と声をかけて、眠りについた。

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