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「んっ……ぃやぁ……」

ベットにそっと寝かせたなまえ。首元を広げると、そこへゆっくりと舌を這わす。鎖骨を伝い、首筋、肩と、繰り返していると堪え切れないようになまえは嬌声をあげる。そのまま牙を突き立て、柔肌を切り裂いてやってもいいのだ。だが、誰だって痛いよりは好い方がいいだろう。若干の親切心と痛みに叫ばれる面倒を避けるために、こうして慣らしてやっているのに―――

「……嫌、じゃねぇだろ。これだけ善がっておいて」

口元には本能的な笑みが浮かぶ。たちこめる甘い香りに俺も脳髄がやられてしまったようだ。認めたかねぇが、興奮する。良い匂いがするのだ。身体に直接響いてくる「こいつを喰いたい」という欲求。見て、嗅いで、触って、そして味わう。五感をフルにつかって楽しむ行為。食事とセックスほど似ているモノはないといったのは誰だったか。そんな言葉が脳裏をよぎる。

なまえの頬は上気し、目は潤んでいる。浮かぶ腰を、押さえつけるように片手をなまえの腰元に這わした。それに反応して、ぴくりとなまえの身体が揺れた。目線が交差する。

半開きの口から覗く紅い舌。浅い呼吸を繰り返しているなまえの口をふさぐように、衝動的に口付けた。何かを求めるようにのばされてきた舌を掬い、絡ませる。互いの唾液が絡まり、水音が響く。熱い呼吸が激しいキスの合間に漏れた。

「………はぁッ…」
「……なまえ、」

熱に浮かされたように何度も口づけを繰り返した。熱いなまえの口内は心地良かった。生き血の通った人の体温。それを感じて、どうやって余裕など保てようか。頭の奥がジンジンと痺れる。唇を離すと、薄く細い糸が伝った。

―――どうしたものか。

自分が化物だと明かした上で人と交わるのは、思えば初めてだった。昔は、人の世に雑じって存在していたため、証拠隠滅のため最後まで喰らい尽くし涸らして殺してしまっていた。それが己を立場を守るためには一番安全だったからだ。

………ここでヤっちまったら、まさに欲望を制御できない獣だな。
唇をぬぐうと、思いなおして、噛みついた。傷から溢れ出すなまえの血を舐めとる。やはり、こいつの血は極上だったが、なるべく味からは意識を逸らして必要最低限だけをいただく。かなり加減をしてやったから、気絶してしまうこともないだろう。

『理由なんか必要なんでしょうか? クロコダイルさんは、生きたくないんですか? 』
そんなこと、人にいわれたのは初めてだった。生きるとは、何か。正体をあかさなかった故、まともに人と話すことだってなかった。何世紀もひとりで堂々巡りしていたこと。生きるとは、死ぬとは何か。実際に生きて死ぬ、人間に聞くのが一番だったはず。

久しぶりにひとりきりの世界からでた。今までしなかったことを試してみるのも一興。
俺の時間は、この不法侵入者によってゆっくりとまた、動き始めることとなった。

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