「舞姫、あなたちょっと太ったんじゃないの?」 「えぅ?」 もぐもぐと。おいしそうに手作りのパウンドケーキを頬張っている舞姫に明日香の直球な言葉。ちなみにケーキの作り主は二十代で。今朝家を出る時に「今年は逆チョコが流行ってるらしくてなー。ちょっと遅れちまったけど、バレンタインのプレゼント、な」といわれて渡されたものだ。 そのために、じゃあ、ホワイトデーには何かお返しをしなくては。そう考え込見ながらケーキを食べていた舞姫に突然降ってきた、太った発言。舞姫は行儀悪くも一瞬ポロリとその食べかすを口の端から落とす。 「汚いわよ」 「む、うむむ…ごめん。えと、舞姫、太ったかなぁ…」 「んー、ちょっとそんな感じに見えたから…ほら、制服、胸元とかちょっときついんじゃないの?」 窮屈だからか。いつもはぴっちりと止めてある制服のボタンが、第二ボタンまで外されていて。明日香は少しだけ覗いた胸の谷間を見てため息を漏らした。 だが、次の瞬間それは上から大きな手によって隠れてしまった。 というよりかは 「きゃっ」 「んー、いい感触。この大きさは、E…いや、F」 「ヨハン!!!」 「明日香、舞姫太ったんじゃなくて、胸がデカくなっただけだぜ」 突然後ろから舞姫の胸を鷲掴みにしたヨハンが、悪気なくニコニコと明日香に言い放つ。十代がこの場に居たならヨハンは今頃死刑宣告が下っているところだろうが、あいにくこれまたタイミング悪く彼は不在で。 涙目の舞姫はあわあわともがきながら明日香の後ろに必死の形相で逃げ込む。 「よ、ヨハンのえっち」 「あはは。そういうなって、オレと舞姫の仲じゃん」 「ヨハン、あなたね!」 「舞姫、Cカップだもん。お店のお姉さんがそう言ってたもん」 「あなたも黙りなさい」 悪気のないヨハンに、さらっと自分のサイズを公衆の面前で公にしてしまう舞姫。明日香は眉を盛大に寄せながら二人を叱り飛ばす。だが、もともと彼女をからかうために行動を起こしたヨハンに、超がつくほどの天然な舞姫二人を相手にするのはさすがの明日香も骨の折れることだったようで、同時にわゎあぁと騒ぐ二人の気に当てられてふらりとしながら額に手を当てた。 「へぇ。舞姫、Cなんだ。で、それはいつの話??」 「え?んーと、中学2年生、かな」 「……もう3年もたってるじゃない。あなた、まさかそのCカップの下着、つけてるんじゃないでしょうね」 どうやらもう、どうでもよくなっているようで、明日香は呆れた顔のままさらりと尋ねる。経験測からして彼女がその質問に対してうんと頷くことは予測済み、ではあったが。 「うん。だってCだもん」 「………」 「どうみてもCではないと思うけど…つか、じゃあ、帰りにオレとランジェリーショップに行こうぜ」 「えー…ヨハンとー?うーん」 少し考え込むふりをして。舞姫が顎に手を当て、十代の顔を思い出して小さく唸った。 「やっぱりいい。だってヨハン。変なの選びそう。えっちなのとか」 「え?あー、ばれた?」 「あら、舞姫にしては学んでるじゃない。ヨハンはそういう男よ」 「いやー、ふけつよー」 「ちょ、そんなに叫ぶなって。十代にバレたら…」 「オレがどうしたって、ヨハン?」 舞姫が大げさに手を口に当てて叫びだしたのを見て、ヨハンが慌てて彼女の口をふさぐ。だが、それも時すでに遅し。鬼も裸足で逃げ出しそうなほどの形相で立っていた。その目は少し金色がかっているのだが、それを見た舞姫はどこか楽しそうに笑った。 「じゅ、十代…」 「ヨーハーンー」 「はは。そんな怒んなって」 「わお…十代くんお怒りだね」 「あなた、何で怒ってるのか分かって言ってるの?」 「ん?何で?」 「結局、本質は何も学んでないわけね」 「???」 2月16日経験を糧にして ヨハン=エロイと。変態だと。その辺は経験上認識してる凡骨娘。ちなみに凡骨娘が楽しそうなのは、十代が教室まで遊びに来てくれたから、という理由。 |