盲目に恋焦がれ

元フィフスセクターのシードである剣城京介は自分自身の思考、サッカーの経験・実力が同世代のプレイヤーより抜きん出ていることを理解していた。
しかしその籠から強引に連れ出された今では自分はなんと息のしづらい狭い世界で生きていたのかと
そうやって、剣城は己の感情の変化と共に感じ始めていた

例えば彼は

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赤の他人を独占したいなんて感情考えられなかったし抱いたこともなかった

サッカー棟、練習の終わった二人きりの更衣室、ロッカーに背を向けて一足先に部屋出ていこうとする松風の肩に頭を乗せた

予想外の衝撃にうわ、と相手が声を上げる

「剣城?」

普段から言葉が少なく感情も…他の一年生と先輩と比べて読み取りづらいであろう俺を、籠から連れ出した当人―松風天馬はどう思っているのだろう
なんとも不可解なこの状況をどうするつもりだろう

剣城は反応をどこか遠い事のように待った。しばらくして肩に乗る重みはそのままで控えめに背中に回される、小麦色に焼けた腕。

「どうしたの剣城」
「……」

戸惑っているのだ。
松風の中の自分はそういったスキンシップを好んで気軽にするような人間ではないはずだから

剣城の方も今さらながら自らの行動がとても恥ずかしく思えてきてしまった。誰かに見付かれば…と考えれば、顔にじわじわと熱が集中するのが分かった。

しばらく沈黙の続いた部室内に思いがけず緊張感のない声が響く

「えと…よ、よしよし?」
「―俺は犬か」

間髪入れず呟くと「う」と声がもれる
向かい合って、あまりにも慎重に触れてくるものだから普段の松風とのギャップに可笑しくなった

いや、解っていた。この体温はずっとこの距離を保って側にいるということ。
松風は友達以上の関係など考えてもいない。あわよくばその境界線を越えようなどという愚かな思考を巡らせているのはきっと、一人だ。

「(今はこれでいい。

それに

俺もこれがいい。)」

最初は強ばっていた手のひらも俺の拒む気がないと分かると徐々にいつもの調子を取り戻す。
すると、はたと思い付いたように松風が語る。

「剣城ってさ、撫でられるの嫌い?」
そうやって、
気遣う声がどうしようもなく嬉しい
「嫌いじゃない…お前はそれでいい」
少しだけ迷って栗色の髪の毛全体を乱暴に撫で回してみた

「剣城に頭わしゃわしゃされると子供になったみたいだ」
と、そう言って笑う
「まだ子供だ。お前も俺も」
「うーん…そういうんじゃ、なくって」

ふわり空気が和らぐのを感じ、松風が言葉を紡いだ

「俺、サッカー…ううん最近一緒に居られて嬉しいよ」
「なんだよ急に」

「だって、剣城にどうしても言っておきたかったから」

ゆらりと浮かび上がってくる可能性をきつく、戒めるみたいに押さえつけた。松風のはにかんだ顔がいとおしいのに憎たらしい。

「(…サッカー馬鹿め)」

関係のない、効果のない悪態を心内で吐いた

「剣城ー天馬ーっ部室締めるから早く出てよう」
「あ、ごめん信助え!!ちょっとだけ待って…「悪いな西園!すぐに行く」

少しだけ低い位置にある瞳が驚きに揺れる。松風が何か紡ごうとする前に俺は手首を掴んで出口を目指す。

「…今日の剣城は―面白いね」

この浮わついた空気に反して持ち前の冷静さで剣城は考える。


松風がたった一人の特別ではなく皆の為にある自分を貫いて進んでゆく内は、
こんな風に求めてどんな形だろうと守っていく。
けれど

「なあ」
「?」


ここで弱さを吐き出す俺と同じ気持ちを一片だけでも抱いていてはくれないだろうか

「なんでもないよ…また今度な」
「うん、また今度」

どんなに女々しくて滑稽に映ったとしても




―そう祈らずにはいられないんだ




(貴方だけ。そんな自分でいられたら)


お前が俺に向き合ってくれたみたいに、
俺もお前だけを見れるようになればいいのに




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素敵過ぎる企画きっと君を好きになるに提出させていただきました。
主催のナマケモノ様、ご迷惑おかけしてしまい申し訳ありません…そして剣城くんの片思い…という大好物なお題をありがとうございました



"恋は盲目"に憧れる剣城くんの話でした

本当に好きなら(性別とかの問題じゃなくて)相手の幸せを考えて、自分の身勝手な想いは閉まっておくべきだとか難しいことでモヤモヤしてる剣城君。

2012.07.25

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