「どうして、
私の事、見るんですか」
無理やり「生け贄」として魔界軍団のアジト?のデモンズなんとか、に連れてこられたかと思えば、
デスタ、という悪魔は私を見つめながら
「生け贄にするには惜しいなァ」
そう言ったのだ。
あの人の目は苦手だ。
何も知らないはずなのに何もかも見透かされたような気分になる。
「お前の事が色々分かる」
私は勢い良く頭を上げる。
「…なにが分かるんですか」
訝しげに尋ねた私に対して、悪魔は愉快そうに笑った。
「教えてほしいか」
ああ、まただ。
初めて会った時のあの笑い方をしている。
「…俺たちは、人のあまり宜しくない心が大好物でな。」
悪魔…という位だから、まあ、そうなのかもしれない。そういえば魂を喰うだのなんだのと言っていた記憶がある。
でも、今話していることと何の関係があるのだろう。
すると、目の前の悪魔は唐突に話を変えた。
「…そうだな例えば
お前は、自分の兄に恋焦がれているだろ」
何を言われたのか、分からなくなった。
「な、ん」
「勿論、家族愛なんかじゃない。」
"女として、だ"
淡々と紡がれていく言葉が、恐ろしかった
止めて、それは
「お前が抱く、他の女に対する泥沼みたいに深い嫉妬心」
――私だけの感情。
「内に秘めた劣等感、そしてなにより…」
そう、全部
本当だから
「止めて!!」
「実の兄に惹かれてやまない、そんな自分への背徳心。」
もう、分かっているから
「お前の心はそれらでいっぱいで実に、…」
ぱしん、
ずいぶんと思い切ったことをしてしまった。
自分でもそう思った。
一体何の感情が、私を駆り立てたのだろう。酷い仕返しをされるかもしれない。それこそ魂を食べられてしまうかもしれない。
それでも構わなかった
「…っも、う……!」
これ以上何も喋らないでほしくて声を発するけれど、唇は上手く言葉を作ってはくれない。
お兄ちゃん、お兄ちゃん!
私はひたすらに愛しい人を想う。それでも、震えは止まらなかった。
思わず力が抜けてその場にへたり込んだ私を、悪魔は見つめていた。
無言で腕をグイと引かれれば、私は反射的に身構える。
「っ…?」
何時まで経ってもやってこない痛み。怖々閉じていた目を開けると、驚くほど近くに悪魔の顔があった。
その瞳を見た途端、視界が歪み出した。
ああ、私を連れ去った時の術だ。これには抗うことが出来ない。
「…勇ましい女は嫌いじゃない。」
意識が薄れて、生温い眠気に引きずり込まれる直前にそんな言葉を聴いた。
「……?」
―意味も分からぬまま、私は深い、暗闇に落ちていった。
くったりと力の抜けた体を抱え直す。見ると、白い頬には涙が跡を残していた。
眠る少女に向かってデスタは呟く
あの笑みを浮かべて。
「その心を手に入れてやる」
お前たちの事情やらなんやらはどうでもいい。
邪魔な奴は倒す
欲しいものは手に入れる
「俺は自分の欲求が満たせればいいんだ」
きっといつもの横恋慕
(打たれた頬の痛みには、気がつかないふりをした)
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素敵企画(Gemini)に参加させて頂けて光栄でした。
なんだかシリアスじみてしまいましたが(浮いてますよね絶対)、こういったもどかしい話を書くのが好きだったり。なんかして…。
2011.08.26 加筆・修正