返事なんぞ、とうの昔に済ませたようなものだろうに。


律儀なオトコだね、と。アイツは至極、素直に述べた





先程から紫は裁縫の手を止めずに俺の話に相槌を打っているばかりだ。

「そうだとしてもだ、聞いておきたかった」

シャキン、


裁縫鋏の音が響き、なんとなしに二人の会話が途切れた。




「アタシはね、きっとアンタが思っているより自由なんだ」

唐突に、いや、普段から考えているであろうことを紫は口に出した
勿論、手は忙しなく動かしたままで。


「その気になれば、何処へなりともゆけるのさ。」

分かるかい?

漸くゆるりと顔を上げた紫は真っ直ぐこちらを見据えてくる。


「…ああ」

「つまりは…そういうことさ。だから、」

突然首に巻かれた暖かいものに少しばかり驚く。

「アタシが心変わりしない内に、帰っといで」


外気に晒されて冷えた肌に、マフラーが巻かれたのだ。先程から何を繕っているのか、そう思ってはいたが、

"春が来る前に、此処を発つ"

ほんの数日前の会話の内容を覚えていて今の今までこれを。



俺の為、か

当たり前といえばそこまでなのだがやはりその事実に心が安らいだ。


「有難う」


ふふ、口元を着物の袖で隠し満足そうに紫は微笑んだ。


ギシギシと音のする床に着けている足はやけに冷たかった。ふと玄関先の履き慣れた下駄に真新しい鼻緒が取り付けてあるのに気づく。一言礼を言おうとした。

「六」

自分を呼ぶ声に振り返ってみたところ、何やら悪戯を思いついたような顔の紫がいた。

「さっきの、欲しいかい」
「自分が言ってみたくなっただけじゃないのか」
「まあ当たりだね。」


この女も変に遠回しな言い方をしなければ可愛らしくなるものを
六はそう頭の片隅で思った。

それでも、


これが惚れた弱みなら質が悪いな。


「欲しいな、」

「ふふ、若いのは昼間からお盛んだねえ」


「?」

ぽかんとしていた六だったが、意味を理解した途端に、羞恥が初な青年を襲った。

「この……」

「悪かったよ」

カラカラと笑う女がこんなにも小憎たらしい。
次に帰って来たときは…などと六が物騒なことを考えていると、



六、







自分の名を呼ぶ声。


とびきりの微笑みでアイツは言った。




























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ムラサキさんの魅力と艶?っぽい雰囲気を表現すんのは難しいと思いました。

あとなんか六ごめん。


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