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バイトが終わり、寄り道した本屋で『大人のドリル』というコーナーを発見した。
昔習ったことを思い返して頭の体操にしよう、ってことなのかな。
試しに数学のドリルをぱら見してみる。
うわーほとんど忘れてるなぁ…どれも初歩的な問題ばかりみたいだけど、全然分かんないや。
微分積分だの、サインコサインタンジェントだの、見覚えのある単語がたくさん出てくる。
こういうのを今世の中で実際に使って役立ててる人がいるんだろうな、すごいな…
ドリルを棚に戻そうとして、はっとひらめいた。
これは青春クラブの活動に使えるかもしれない。学生時代を思い出すアイテムだ。
薄いドリルだから値段も安い。買うことに決めた。
さてこれをどう使おうか。普通にテスト前の気分を味わえる勉強会とかかな。
でもみんなそんなに勉強好きじゃないしなぁ…一緒にやってくれるかな。
まあその時はその時だ。
本屋を出て、とりあえず松野家に向かう。家にいた人に決めてもらおう。
松野家を訪ねると、出てきたのはカラ松だった。

「カラ松、今一人?」
「ああ、静寂と孤独に身を委ねていた…」
「うん、まさにそうだね」
「何か用か?」
「青春クラブの活動として、これ一緒にやらない?」

数学ドリルを取り出して見せると、「いいだろう」とあっさり承諾してくれた。

「カラ松って数学得意だっけ?」
「フッ…俺は幾多の血塗られた」
「ああ、赤点取ってたりしたねそういえば」
「…言っておくが、決して解けなかった訳じゃない。ただ俺には圧倒的に時間が足りなかっただけだ…」
「そっかそっか。よし、一緒に悩みまくろう」
「そうだな」

家に上がっていいと言われたので、居間に入らせてもらう。
テーブルの上には鏡が乗っていた。さっきまで一人で見てたんだろうか。
とりあえず座ると、カラ松が筆記具と紙を持ってきてくれた。何気に気遣い屋なんだよなぁ、カラ松。

「ありがとう。じゃあテスト前気分で、さっそく解いていこう!」
「真理への扉が今開く…!」

カラ松がドリルを開けた。
勉強のたびにこんなこと言ってたんだろうか。面白すぎる。当時カラ松と一緒に勉強会やってたら手につかなかっただろうな…
最初の問題は因数分解だった。
公式や説明が書いてあるものの、すっかり忘れてしまっていた私にとっては数字と記号の羅列にしか見えない。
数学苦手だったんだよなぁ。だからこそ、誰かと一緒に悩めたら楽しいと思って買ってきたわけだけど。
えっと、x^2+8x+16………えー…

「いきなり難問だー」
「このどれかの公式に当てはめられるはずだ。まず共通因数はないだろう?」
「共通…え?」
「次に、式の真ん中の項が偶数だから(a+b)^2か(a-b)^2にまとめられるかを」
「ちょっ、ちょっ、ちょっと待って」
「何だ?」

きょとんとした顔のカラ松に余計パニックになる。

「カラ松、ほんとに数学できるんだね…!」
「フッ…言っただろう、俺は時間が足りなかっただけだと」
「え、でも今一発で解き方見抜いたじゃん!」
「ハウトゥーは解っているんだ、後はいかに美しい数式やグラフを描いてアンサーに辿り着くか…それが一番重要だろ?」

当然と言わんばかりの言い草に思わず笑った。

「なるほどね、途中の式とかをどう綺麗に書くかで時間取られてたわけか…カラ松ってバカなのに頭いいんだね」
「…それは褒めてるのか?」
「じゃあ次も教えて」
「…フッ、いいだろう。俺に任せておけ…」

ところどころ英単語を挟んでくる以外は分かりやすい解説で、あっという間に因数分解の章が終わった。
しかも全問正解。

「うわーすごい!すごいよカラ松!終わったよ!」
「楽勝だったな」
「カラ松がいないと永久に数字スパイラルから抜け出せないままだったよ…あ」

カラ松につられて英単語を挟んでしまった。
でもカラ松は気にしてないみたいで、ドリルの残りのページを見ている。

「懐かしい問題ばかりだな…」
「それ見て懐かしいって思えるのがすごいよ」
「部活の休憩時間に、同級生に頼まれて教えてやったりしていたからな」
「うそそんなことしてたの?」

意外だ。兄弟以外からは頼りにされてたんだな。

「私もテスト前にカラ松に頼れば良かったなー…」
「いつだっていいぜ…お前なら、な」

めちゃくちゃキメ顔で言われたのでまた笑ってしまった。
カラ松は納得いかない顔してたけど、実はちょっとときめいたのは秘密。



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