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トド松が見たいと言った映画のDVDを持って松野家に遊びにきた私は、待ってくれていたトド松と暇だったらしいおそ松と一緒にDVDを見ることになった。
途中までは二人とあれこれ言いながら見ていたものの、私は何回も見たことのある話なのでだんだん眠くなってきてしまった。
映画の方に集中しだした二人をおいて、ずるずると机に顔をのせ、うとうとして……



いつの間にか寝てしまったようだ。
目は開けてないけど、テレビの音と両隣の感触で、まだ二人がここで映画鑑賞中だということが分かる。
昨日バイトの片付け長引いちゃったからなぁ…何となくまぶたがまだだるい。
二人には悪いけど、もうちょっとまどろんでよう。
と思った時、カシャリとカメラの音がした。
びっくりして体がぴくりと動いたけど目は開けなかった。もしかして、私の寝顔撮られた?

「ちょっ…お前、杏里起きちゃうだろ」

おそ松の、少し焦ったようなひそひそ声。
ほんとはその前から起きてたけど、今目を開けるのは恥ずかしい。しばらく寝たふりで様子をうかがおう。

「大丈夫大丈夫。杏里ちゃん大抵の物音じゃ起きないから」
「あー、まあそうだけど」

何で二人がそんなこと知ってんの?
確かにちょっとやそっとの物音じゃ起きない方ではあるけど。

「ふふっ…高校の時にさー、六限終わって放課後になっても寝たままだったことあったんだよね、杏里ちゃん。たまたま教室覗いた時に発見して」
「何それ知らない」
「杏里ちゃんの友達が側にいたんだけど、部活があるからって僕にお守り任せてったの」

あ!あの時か…!
目が覚めたらいつの間にか放課後で、誰もいない教室に一人だけだったんだ。
あれ?でもあの時、目が覚めてからトド松が入ってきた気がするんだけどな…

「あの時も写真撮っても全然起きなくて撮り放題だったなぁ〜」

撮ったのかよ。
私の知らないところで何されてるんだろう。

「杏里にバレてねーんだ?」
「うん。一通り撮って、それでも起きないからしばらく前の席に座ってぼーっとしてた」
「青春じゃん」
「あ、かもね〜。荷物取りに席外した隙に起きちゃったんだけど」
「その写真は?」
「ふふふ」
「ははーんさてはエロ本に挟んでんな?」
「は!?ちっがうし!そんなもののために撮ったんじゃないし!」
「しーっ!杏里起きちゃうだろ!」
「むぅ…」

私の写真がどうなったのは気になるけど、そういう目的には使われてないみたいで良かった。
いや良くもないのか、盗撮ってことだよねこれ。何してんのほんと。

「なーそれ後で見せてよ。制服姿の杏里とか今や奇跡に近いし」
「いいけど、不埒な目的で使うのはやめてよね。大事にしてんだから」
「分ーかってるって。そういやあの頃、杏里と一緒に写真撮ったこととかめったになかったよなぁ。俺携帯持ってなかったし」
「まーね。そん時もフィルム余ってた使い捨てカメラで撮ったから」
「うわ懐かしーわ」

映画そっちのけで思い出話になってる。
完全に起きるタイミングを逃した…

「で、おそ松兄さんは?」
「んあ?何が」
「杏里ちゃんがちょっとやそっとの物音じゃ起きないって、何で知ってんの?」

僕だけだと思ってたのになぁ、なんてどこか不満そうな声。

「ケッケッケッ…知りたい?」
「…しゃくだけど知りたい」

私は何となく思い出していた。
これも多分、高校生の時の話だ。

「図書室で杏里が勉強してるっつーから冷やかしに行ったら既に寝てたんだよ」

そうそう。その時も全然気付かなかったんだった。

「色々ちょっかいかけたんだけど、図書室だからでかい音立てるわけにいかないし結局起きなくて、ノートにカリスマ参上って書いて帰った」
「へえ〜」

懐かしい。まだそのノート家にあるな。
あのおそ松が起こさないでいてくれたんだ、ってちょっと感動してたんだけど、一応起こそうとはしてたんだ。

「当時のおそ松兄さんのちょっかいで起きないとか相当だよね杏里ちゃん」
「だよな、おかげで…」

おそ松の言葉が途切れて、映画の音しか聞こえなくなった。

「……え、何、続きは?」
「…んー、やっぱ何でもない…」
「あんた何かしただろ」
「し、してないしてない…」
「その態度が怪しいんだけど!何!?何したの!?」
「だっ、別にほんと怪しいことしてねーって!」
「怪しくはなくても何かはしたってこと!?」

めちゃくちゃ声の大きさを抑えてるけど、私の頭の上で気になる言い争いが行われている。
ノートの落書き以外に、何かされたの私…?

「別に、ほんと別に大したことじゃねーって…!」
「大したことじゃないかどうか杏里ちゃんに聞いてみようか?杏里ちゃーん?」
「ばっかお前起こすなって!分かった言う、言うから…」

おそ松がトド松の耳元でささやいているらしい。ほんとに何かされたんだ…
全然聞こえないし。私が一番気になるんだけど!

「………あー…でもそれはねー…」
「いややるだろ?見つけたらやっちゃうだろ?」
「…てか僕もぶっちゃけそれした」
「お前もかよ!」

おそ松と同じツッコミを心の中でしてしまった。
この二人に一体何をされたっていうんだろう。気になりすぎて眠気が飛んできた。

「いや、だって…やっちゃうよね〜」
「だよな?ちょっとだけなら、って思うよな?」
「思う思う!だって杏里ちゃんほんとに起きないんだもん!起きない杏里ちゃんが悪いよね」
「そーそー!起きない杏里が悪い!」
「今だって全然起きないし…」

トド松の言葉で、また二人の会話が止まった。
映画はもうそろそろ終わるみたいだ。クライマックスの主人公の台詞が耳に入ってくる。
でも何となくだけど、二人ともテレビじゃなくてこっちを見てる気がする。
どうしよう、今すぐ起きた方がいいのかな?
でも二人に何をされたかっていうのも気になるし…このまま寝てたらそれを再現されそうな雰囲気だけど。いや、でも内容によるよね…!
何なの?今のこの空気何なの?私は何をされたの?
心の中でプチパニックになりながら起きようかどうしようか迷いに迷っていると、ガラガラと玄関の開く音がした。

「ただいマッスルマッスルー!」
「チッ」

十四松の騒がしさでかき消されてどっちかは分からないけど舌打ちされた。ほんと何されようとしたんだろう…

「あれー?杏里ちゃん来てる!」
「十四松静かに、杏里寝てんだから」
「え!そーなの!?」
「だから静かにって!」

さすがにこの十四松の声量だと起きない方が不自然な気がする。
今目が覚めたふりを装って、目をしばたかせながらのそっと起き上がった。

「あ、杏里ちゃん起きちゃった…」
「おい十四松ー」
「あは、ごめーん」
「杏里ちゃん、今起きた…?」

トド松が探るように聞いてくる。
おそ松も気になるような視線を向けてきた。

「…ん、ごめん…いつの間にか寝ちゃってた…」
「いいよ。昨日バイト遅かったって言ってたもんね」

ほんの少しだけ、二人ともほっとした表情をした。

「十四松もお帰り。お邪魔してます」
「うん!おれ風呂行ってくんね!」
「行ってらっしゃーい」

ところどころ汚れた野球服の十四松がお風呂場に向かうのを見送って、ちょうどエンドロールも終わりになった。

「あ、結局最後見てなかった」
「ほんとだ。え、最後どうなった?」
「あれ、二人とも見てたんじゃなかったの?」

もっともなツッコミを入れると二人とも固まった。
二人とも油断したな。

「いや、ちょっと雑談してたら見逃しちゃって…」
「ふーん、何話してたの?」

自然な質問だと思う。
二人はちらりと目線を交わした。

「「別に〜」」

何でもなさそうな顔を作ってはぐらかす二人を見たら気になってしょうがないけど、万が一とてつもない爆弾だったらどうしようと思ってそれ以上は聞けなかった。
いつか心の準備ができた時にでも、二人の前で狸寝入りしてみよう。



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