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「ひろーい!」

トト子ちゃんが歓声を上げた。
私も思わず声を上げそうになった。
このスパリゾートは南国風の内装になっていて、日本なのに海外に来たような豪華さ。
お風呂だけじゃなくてフードコートや岩盤浴やエステなんかもあるなんて、一日楽しめそうだな。
できたばかりだから、予想通り人も多いけど…迷子にならないようにしなきゃ。

ふと、自分の体に目を落とす。
この間一松くんが白がいいって言ってくれたから、本当に白い水着を買ってみたけど。
ビキニではあるけどフリルがたくさんついてるし、下はスカートも付いてるから、何とか色々なサイズはカバーできた…んじゃないかなぁ…そうだったら、いいな……
ちらりとトト子ちゃんの方を見る。
シンプルなビキニ姿なのに、スタイルがいいから輝いて見えるよ…!
ああ私、トト子ちゃんの陰に隠れてあんまり見てもらえなかったりして。というか昔からトト子ちゃんで目は肥えてるよね、きっと。
ため息をついた。

「どうしたの?杏里ちゃん。せっかくのスパだよ?」
「うう…トト子ちゃんは何でそんなにスタイルいいの…?」
「え?やだそんなことないよ、昔から何もしてないしぃ、自然とこうなってるっていうか?」
「いいなぁ…」
「杏里ちゃんだって悪くはないわよ、一度は私とアイドルユニット組んだぐらいなんだから、自信持って!」
「う、うん」

トト子ちゃんはこう言ってくれたけど、私が何より気になるのは一松くんの反応で…
そっと腕でお腹回りを隠した。

「いやーいい眺めだねぇ」
「ほんとだねぇ〜」
「あ、みんなも来たみたい」

トト子ちゃんに言われて、声のする方から恐る恐る顔を背けた。
ああ、とうとう来ちゃったよぉ…!
ゆっくりとトト子ちゃんの後ろに隠れた。

「トト子ちゃん杏里ちゃんお待たせ〜っ!」
「フッ…待たせたな、カラ松ガールズ」
「ありがとうございまーす!!!!!」
「えっ、わ、トト子ちゃん!?」

トト子ちゃんが急に倒れこんできたのでとっさに支えた。

「トト子ちゃん、大丈夫?わ、わー、また血が…!」
「刺激が強すぎたか…ったく、手のかかるお姫様だ」
「えっ、あ……」

トト子ちゃんの鼻からほとばしる血に動揺していると、誰かがトト子ちゃんを代わりに抱き抱えてくれた。
かなり体が引き締まっている、八頭身で髪の色が青の男の人。

「…カラ松くんたち、またそのモードになったんだね」
「ご名答〜!だってさ、せっかくの肌色チャンスだよ?気合い入れてかなきゃねっ」

ピンクの髪のトド松くんに後ろから肩を抱かれた。
気合いが入るモードなんだな、これ…
カラ松くんたちが姿を現してから、老若男女問わず歓声があちこちから聞こえてくる。
あ、トド松くんの投げキッスであっちの女の子たちが倒れた…

「トト子ちゃんは俺に任せな。せっかくの純白の水着が紅蓮に染まっちまうぜ…」
「あ、ありがとう、カラ松くん」
「ちょっ、カラ松だけいいとこ取りはずるいなー」
「あはは、トト子ちゃん失神しちゃった?」
「せっかくスパリゾートにまで来たってのに気絶させてどうすんだよ」
「しょーがないよチョロ松、だって俺たちF6だよ?」
「ふ…まあ、そうですけどね…」
「あ、みんなもそのモードなんだ」

続々と集まってきてる六つ子くんたちに、周りの興奮と熱気がひときわ高まる。アイドルが現れたみたい。
思ったけど、ずっとF6モードでいたらみんな彼女とかすぐできるんじゃないかな…

「ていうか杏里ちゃんめっちゃ可愛いね!」
「わ!あ、ありがとう十四松くん」

両手を急に握られてびっくりした。ストレートに褒められると、やっぱり照れちゃう。
…って。

「あれ…?一松くんは?」
「一松兄さんはあそこ」

十四松くんが指差す方向を見ると、F6モードのみんなを一目見ようと群がる人たちのずっと向こうで、壁に隠れている人を見つけた。
遠くてあまり分からないけど、多分こっちの様子をうかがってる。

「一松くん、何で来ないんだろう」
「杏里ちゃん呼んできてあげて。俺たちここら辺で、体濡らしておくから…」

おそ松くんがそう言うと、回りがまたざわめきたった。すごい…もう本当のアイドルだよみんな…!

「わ、分かった!行ってくるね!」

人混みを何とか抜けて、すっかり人の少なくなったプールサイドを横切っていく。
途中ちらりとみんなの方を見ると、なぜか空からの光がピンポイントにみんなだけを照らしていた。本当に、謎のモードだなぁ…
えっと、さっき見かけたのはこの辺りだったけど…あ、いた。
柱の陰にうずくまってる。
どうしたんだろう。
人が多い場所苦手だったりするのかな。この間は楽しみって言ってたけど…
そっと近付いて隣にしゃがみこんだ。

「一松くん」
「はっ!?」
「あ、ごめん…」
「あ……うん…」

一松くんだけいつも通りの姿だ。F6モードは疲れるって言ってたしね。
でも体育座りのまま、全然こっちを見てくれない。
さっきまで一松くんに見られることを想像して緊張してたけど、こうなるとちょっとでいいから見てほしいな…なんて…

「一松くん、こういうとこ苦手?」
「い、いや、別に」
「みんなあっちでF6モードになってるよ」
「俺は、いい」
「プール入らない?」
「は…入る」
「じゃあ一緒に行こう」
「…先行ってて、見てるから…」
「私見られてるだけなの?」
「いやっ、そんな、変な意味じゃ…!」
「一松くんが白って言ったから白の水着買ってみたよ」
「…う……」
「ど、どう…かな…」

ああ緊張する。自分から見てもらうように催促するって…!
で、でも、一松くんのために買ってきたようなものだし、見てもらわなきゃ意味なくなっちゃうし…
ドキドキしながら待ってると、一松くんがゆっくりゆっくりこっちを向いてくれた。
そして、私をちらりと見た後、お酒に酔った時みたいなふにゃっとした笑顔になって「かわいい」と一言呟いた。
思わず両手で顔を覆った。

「〜〜〜〜っっ!!」
「…え、ど、どうしたの杏里ちゃん」
「一松くんが可愛い…」
「えっ…おお俺今何もしてないよ…」
「ううう」

ああもうだめだ。今度は私が一松くんのことを見れなくなってしまった。
が、頑張って水着選んで良かったよぉ…!
しばらく目を閉じて深呼吸をゆっくり、たくさん繰り返す。
ここでずっと座り込んでるわけにはいかない。せっかく来たんだから。
一松くんとプールを楽しむんだ…!
顔から手を離して立ち上がった。まだ一松くんの顔は見れない。

「あの、どっか入りに行こうよ、せっかく来たんだし」
「…そう、だね」
「あと、あ、ありがとう、可愛いって言ってくれて…」
「…うん」

あああ、幸せだよ…!!
まだ心臓はばくばく音を立ててるし体だって熱いけど、心の中は一気に春爛漫になった。
横で一松くんが立ち上がる気配がする。

「ど、どこ行こう?みんなのとこ戻る?」
「…いやいいよ、あっちはあっちで楽しくやってんでしょ」

あっちの方は、いつの間にかF6モードのみんなの鑑賞会みたいになっていた。
他の人たちはプールとか入らなくていいのかな…
一松くんが人のいない方へ歩いていくので私も付いていった。

「あのモードのみんなすごいね、アイドルが現れたみたいになってたよ」
「あれアイドルモードだから」
「え、本当にアイドルだったんだ」
「だからあんなにカリスマ性の塊みたいになってんだよ」
「あれもデカパン博士の薬の効果なの?」
「あーまあね」
「すごいなぁ…私思ったんだけど、あのモードのみんなならすぐに彼女できるんじゃない?」
「それは無理」
「そうなの?」
「アイドルはみんなのものでしょ」
「あ、そういう現実的な制約もあるんだ…」
「あのモードだと誰か一人のものにはなれないからね」
「そっかぁ。あんなにモテてるのにね」
「みんな楽しんでんだからいいんじゃない」
「…一松くんは?モテなくていいの?」
「興味ない。それよりどこ入る?」

着いたのはお風呂のスペースだった。色んな種類のお風呂がある。
どれにしようかなぁ。

「あ、泡風呂は?」
「いいよ」

二人でもこもこの泡の中に体を沈めた。温かい。
こんな贅沢な場所を一松くんと二人だけで共有できるなんて、ほんとに幸せ。
肩に押し寄せてくる泡を両手ですくってふーっと息を吹きかけたら、たくさんのシャボン玉が飛んでいった。

「わ、ものすごい泡の量だね」
「ねー」
「ふふふ、今の言い方も」
「可愛いとか言うんでしょどうせ杏里ちゃんのことだから」
「あ、見抜かれてた」
「さっきも言ってたし…杏里ちゃんのセンスってずれてるよね」
「そうかなぁ。猫っぽいんだよ、一松くん」
「それは褒め言葉として受け取っとく」
「あ、そういえば見た?トド松くんが撮ってた写真」
「何それ」
「この間、私に猫の耳と尻尾が生えちゃったでしょ?その時一松くんと猫ちゃんとお昼寝してた写真、いつの間にか撮られてたんだよー」
「……あいつ…」
「見てない?」
「見てないし何も聞いてない」
「一松くんも猫耳付けてたね、あれも可愛かったなぁ」

生で見れなかったのが残念。

「べ、別に可愛さとか狙ってないし、お揃いとも思ってないし」
「そうなんだ、お揃いにしてくれてたのかと思ってた」
「嘘ですお揃いにしてました」
「ふふふ、そうだと思いました」
「見抜かれてた…」

泡風呂から出た後、流れるプールまでやってきた。このスパリゾートで一番大きいプールだ。
レンタルコーナーで浮き輪を借りてはしゃいでいたら、一松くんに取り上げられて頭から被らされた。

「はい好きなだけ流されてください」
「一松くんも流されるんだよね?」
「常に社会の最下層でゴミみたいな兄弟達と浮き世に流されてるよ」
「じゃあ一松くんは流されのプロだね」
「いいねそれ…流され界に就職したい」

プールに入って浮いてる私のそばで、浮き輪に片手をかけてゆっくり歩く一松くん。
何だか本当のカップルみたい…!
と思ったら、彼氏が彼女の入った浮き輪を押している本物のカップルが隣を通りすぎていった。

「なんか私たちもカップルみたいだね…」

呟いてしまってから我に返った。
な、何言ってんの私…!自意識過剰でしょ…!

「……そうだね」

一松くんの声に呼吸が止まるかと思った。
どんな気持ちで言ってくれたんだろう。
私のつまらない一言に合わせてくれただけかもしれないけど。
私と、同じなら。
もしかしたら、これはチャンスなのかもしれない。
私は一松くんと本当の恋人同士になりたいんだって言うチャンス。
緊張で、浮き輪を持つ手をぎゅっと握った。

「あ、あの、一松く」
「ドゥーン!!!」
「ぐはっ」
「わーっ!」

一松くんが一瞬でプールに沈んだ。
代わりに私の前にいたのは、

「十四松くん…!」
「あーっ杏里ちゃんいいね浮き輪!!」
「えっ、ああ、さっきあっちで借りられたよ」
「マジで!ぼくも借りてこよー!」

目にも止まらぬ早さでプールを出て行ってしまった。
とっさの出来事にちょっとぼーっとしてると、今度はトド松くんが来た。
あ、というか二人ともいつもの姿に戻ってる。だから今まで誰もいなかったプールに他の人がいたんだ。

「ちょっと十四松兄さん!走ったら危ないよ!ったくもう…ほんとごめん杏里ちゃん…」
「私は大丈夫だけど、一松くんが…」

言いかけた瞬間に、ザバッと水の中から一松くんが出てきた。
顔が怖い。

「マジでぶっ殺す…」

そう言い残して十四松くんを追いかけて行ってしまった。早い…もう十四松くんを別のプールに突き落としている。

「あーあ…ごめんね、十四松兄さん壊滅的に空気読まないとこあるから…」
「ううん、いいよ」

まだ早いってことかもしれないな。焦らないようにしよう。


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