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ランニングマシーンから降りてシャワールームに向かう。
最近筋トレをしても筋肉痛にならなくなった。家でも軽くやってるからかな。成長した気がして嬉しい。
体重はそれほど変わってないけど…筋肉ついたからだよね、きっと。うん、そうだ。
それに運動するからってちょっと夕ご飯食べ過ぎちゃったし。うん…
シャワーの後ロッカールームで着替えていると、「杏里ちゃん、今帰り?」と声をかけられた。
ジムで仲良くなったお姉さんだ。会社帰りにいつも寄っているみたい。

「はい、もう帰るところです」
「そうなんだ、私も」

話しながらジムの入り口まで一緒に行く。
このまま駅まで一緒かな、と思ったらお姉さんはジムを出たところで立ち止まった。

「今日は彼氏が迎えに来てくれるの」
「そうなんですか…いいなぁ」
「あれ?杏里ちゃん彼氏いないの?」
「いえ、まだ…」
「あ、まだってことは望みはあるんだ」
「あっ、いえそうでは…!」

一松くんといつか付き合えたらとは思ってるけど、確定したわけじゃないんだから…
お姉さんはくすくす笑って「焦らなくても大丈夫」と言ってくれた。恥ずかしい…

「彼氏さんが迎えに来てくれるっていいですね、お姉さん思いの方で」

話題をそらしたら、お姉さんが「うーん、多分それもあるんだろうけど」と言って少し苦笑いした。
そして、私に顔を近付けて小声になる。

「実はね、最近この時間に帰ると、後をつけてくる奴がいて」
「…えっ、ストーカーってことですか…?」
「分かんない。心当たりもないし。顔も見てないんだけど、確かにつけられてたの。それだけで何もされてないんだけどね。ほんと迷惑」

お姉さんはふんと鼻を鳴らした。

「それ彼氏に話したら迎えに来てくれるようになったんだけど、それ以来つけられなくなったの」
「警察に届けました?」
「うん。そしたら私の他にも同じような目にあった人がいたらしくて、警備を強化してたんだって。でもまだ捕まってないみたい」
「怖いですね…」
「杏里ちゃんも気を付けなね?私や他の人みたいに後つけられるだけじゃ済まないかもしれないし」
「はい。そうします」
「だから早く彼氏作りな〜?」
「うう」

ほっぺたをぷにぷにされた。こ、ここにもまだ肉が…!
顔の肉もちょっと落としたいなと思っていると、お姉さんの彼氏さんが来た。優しそうな人だな。
お姉さんが私のことを話してくれて、途中まで一緒に帰ろうと言ってくれた。
二人の時間を邪魔して申し訳なかったけど、そのおかげか家に着くまでつけられている感じはなかった。
変な人もいるんだなぁ。ジムに行く時間、ちょっとずらそうかな。



と、いうわけで今日は朝からジムに行ってきた。
いつもは夜だけど、朝から運動っていうのもいいなぁ!爽やかな気持ちになれた気がする。
この後はどうしようかな。バイトもないし。
今日はもう運動したから家でごろごろ…だめだめ、意味なくなっちゃう。
とりあえず部屋の掃除でも、と家に帰ってきた瞬間、スマホに着信が。
トト子ちゃんからだ!珍しい。

「もしもし」
『あっ杏里ちゃんおはよう!ってもうすぐお昼だけど!』
「ふふふ、そうだね」
『杏里ちゃん今日暇?』
「うん、暇だけど」
『じゃあ家にいて!今から迎えに行くね!』
「えっ、迎えにって…あ、切れた」

トト子ちゃん、相変わらずの押しの強さ…!
迎えに行くってどういうことだろう、どこか行くのかな。
前に一度家に来たことがあるから道は分かると思うけど…一体何の用だろう。
ドキドキしながら待っていると、しばらく経ってからチャイムが鳴った。
ドアを開けると、少しおめかししたようなトト子ちゃんがいた。

「杏里ちゃんお待たせ〜」
「久しぶり!今日はどうしたの?」
「あのね、今日トト子の誕生日なの。誕生日パーティーするから、杏里ちゃんに来てほしいんだ」
「そうだったんだ!おめでとう!私で良ければ行かせてもらうね」
「ありがとー!今から私の家でするから、行こ行こ!」
「トト子ちゃんってほんとに積極的だよね」

はしゃいでるトト子ちゃんに背中を押されて、笑いながら家を出た。
商店街に入ったところで、トト子ちゃんへのプレゼントとしてバイト先のケーキ屋でお菓子を買った。

「ありがとう杏里ちゃんっ、これ食べたかったの〜!」
「これ人気あるからね。でも、トト子ちゃんの誕生日パーティーをやるのに私を迎えに来ちゃって良かったの?主役が会場にいなくて大丈夫?」
「うふふ、実はね、おそ松くんたちがサプライズプレゼントを用意してくれるみたいなの!その間に私が杏里ちゃんを呼びに来たってわけ」
「サプライズプレゼントかぁ…」

サプライズプレゼントと言えば、この間の自分の失態を思い出す。
猫と喋れるようになる薬を間違って自分が飲んでしまって、変な姿になってしまって…いつの間にか寝てたし…
しかも同じ日に一松くんが猫耳の子が好きだって話をしたばっかりなのに…!
意識してもらいたくてわざと猫の姿になったと思われてたらどうしよう。それが一番嫌かも…
一松くんは気にしてないって言ってくれたけど、私的にはすごくこたえた出来事だった。
ちゃんと注意書きは読まなきゃ。

「サプライズプレゼント、楽しみだね」
「うん!まあ、あのニート共のことだからあんまり期待はしてないけど」
「あはは…でもトト子ちゃんのライブグッズとか、いっぱい買ってくれたりするんでしょ?」
「そうね、それがあるから5%ぐらいは期待してる」
「それでも5%なんだね…」

さすがトト子ちゃん、相変わらず厳しい。
後でそのお菓子の写真撮らせてね、ブログに載せるから、なんて言われながらトト子ちゃんの家に着いた。

「もうおそ松くんたち来てるわよ。部屋に通しておいたから」
「はーい!あいつら変なことしてないでしょうね…」

不信感があるらしいトト子ちゃんと一緒に二階の部屋へ向かう。

「みんなーお待たせー!今日の主役が入るよー!」

トト子ちゃんが声をかけてからドアを開けた。私もこんにちは、と言うつもりで中を覗く。
でもそこにいたのは、八頭身でモデルみたいな知らない男の人たちが六人。何だかキラキラしていてみんな髪の色が違う。
その中の赤い髪の人が私たちに向かって跪いた。

「待ってたよ、俺たちのお姫」

トト子ちゃんがドアを閉めた。

「杏里ちゃん、パーティーは二人だけでやりましょ」
「あの、今の人たちは…?」
「知らないあんなボケカス共」

トト子ちゃんの顔が怖い…!!
恐れおののいていると、ドアの向こうから声がしてきた。

「だから言ったじゃん!もうF6ごときで騙されるトト子ちゃんじゃないよって!」
「っかしーなー、前は逆ハーつってはしゃぎまくってたじゃん」
「やはり金がないからF6でごまかすというのは無理だったか…」
「一松以外は知らないだろうけど、もう僕達飽きたって言われてるからね」
「うそマジかよ…あ、じゃあ全裸は?許してくれんじゃね?」
「あ、やる!?全裸やるー!?」
「脱ぐな十四松!お前バカかよ!?見ただろ杏里ちゃんもいんだぞ!」
「いやー意外と喜んでくれるかもよ?『ありがとうございまーす!』って」
「絶対ないね!賭けてもいい!」
「ドン引かれて縁切られるのがオチだよ!」
「杏里ちゃんに嫌われたらおそ松兄さんのせいにして死ぬから」
「怖ぇーよ一松自分の命を盾にしてんじゃねーよ!」

え、今のおそ松くんたちなの…!?!?
整形どころの話じゃなかったんだけど…!!!
とにかく、恐らく怒りで体を震わせているんだろうトト子ちゃんをなだめよう。
すると、その前にドアが開いた。

「ごめんごめんトト子ちゃん、俺たち金なくてぇ」
「だったら最初からそう言えクズ共がぁぁぁぁ!!!!」
「グフッ…!!…な、何で俺……」

なぜかカラ松くんにトト子ちゃんの鉄拳が…!
他の五人は土下座をしている。あ、よく見るとみんないつもの姿だ…

「はなっから期待なんかしてねーんだよこっちはよぉ!!大体プレゼントもねぇのにトト子ちゃんのバースデーパーティーしようとか言ってくんじゃねぇ!!」
「「「「「すみませんでした!!」」」」」

おそ松くんたちの方から言い出したんだ…
ものすごい誕生日パーティーの幕開けになっちゃったな…
キレるだけキレたトト子ちゃんは、おそ松くんたちを部屋の隅に正座させて私をお菓子の箱と共に真ん中に座らせた。

「わ、おいしそう!このマドレーヌ可愛い〜!ねね、マドレーヌと一緒に撮って撮って!」
「いいよ、はいチーズ!…これでどうかな」
「うん、いい感じ!マドレーヌ持ってる私超可愛い!」
「うんうんトト子ちゃんはいつでも可愛いよ〜」
「何てったって僕らのアイドルだもんね」
「何したって一番可愛いのはトト子ちゃんだぜ…」
「最強無敵だよ」
「トト子ちゃん昔からずーっと可愛いもんね!!」
「そうそう!だからさぁ…もう、いいかなぁ…?俺たち、足ももう限界なんだよぉ…」
「もう、しょうがないなぁ。いいわよ、一緒に食べましょ」
「やったー!ありがとうトト子ちゃん!」

やっとトト子ちゃんに許されたらしいおそ松くんたちがお菓子の箱に集まってきた。あ、みんな普通に歩けてる…
昔からこういうやり取りを繰り返してきてるのかな。何か、いいな、そういうの。

「にしてもトト子ちゃん、ほんとにF6飽きちゃったの?」
「六つ子の逆ハーレムなんてなかなかないよ?」
「あのね、みんなあれだからかもしれないけど台詞とか行動がワンパターンなのよね。乙女ゲーだって毎回同じストーリーだったら飽きるでしょ?」
「トト子ちゃんあれって何?」
「察して」
「あれか…」

なんかみんな落ち込んでる。
でもおそ松くんが顔を上げた。

「こうなったらやっぱあれしかねぇな…十四松!」
「へい!」
「杏里ちゃんはちょーっと目つぶっとこっか」
「え…」

話にいまいちついていけないでいると、トド松くんが目隠しをしてきた。視界が真っ暗だ。
布が落ちるような音がする。

「さあ、ぼくの胸に飛び込んでおいで…」
「ありがとうございまーす!!!」

十四松くんっぽい声が聞こえたと思ったら、トト子ちゃんの叫びが響いた。

「はいもういいよ〜急にごめんね」
「うん、別に大丈夫だけ……うわーっトト子ちゃん!?」

トト子ちゃんが顔中血まみれになって床に倒れていた。

「と、トト子ちゃんっ大丈夫!?トト子ちゃん!?」
「大丈夫大丈夫、よくこんな発作起きるから」
「え、ほ…発作なの…!?」
「うん発作ー」

服がはだけている、さっき見たような八頭身で黄色の髪の人…十四松くん…だよね?…が、トト子ちゃんをお姫様抱っこしてベッドに寝かせた。
ほんとに大丈夫なのかなぁ…
でも覗きこんだトト子ちゃんの顔はすごく安らかだった。
私が目隠しされている間に一体何が…?
とりあえず、血を拭いてあげた。


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