早朝の密室







俺とお前しかいないこの密室は、俺達だけのものだ。そうして脳髄おかしくなるまでセックスして俺だけのものだって思わせてやる、と言葉包み隠さずストレートに打ち噛ました俺の愛人。
容姿を一言で表すなら赤毛のライオン、名前をルキーノ・グレゴレッティという。俺にはルキーノと同じような身体関係を持った愛人がたくさんいる。ルキーノもその中の一人に過ぎない。かくいうルキーノには元ではあるが妻子がいた。今、俺の他に愛人みたいな奴や本物というべき恋人がいるのかは分からない。お互いのプライベートには干渉しない、ただ俺達は愛人という関係だけで結ばれていた。昨晩もそう。ルキーノから誘いの電話があって、たまたま遊ぶ予定がなくて暇だったから会った。ルキーノは俺のお抱えの愛人の中でセックステクはピカイチだった。だからヤリたい時にやる、それで俺は暇潰しにもなるし、満足できて一石二鳥というわけだった。

早朝、俺はルキーノの隣で目が覚めたが、モーニングコールを頼むのも忘れて俺はやってしまったと思った。時計を見ると午前9時すぎ。野獣を起こさないようにそっとお互いの雄の匂いと汗が染み付いたシーツを剥いで、小さな丸テーブルの上にある携帯を見る。案の定七色に光るランプが執拗に点灯して俺の瞳を揺らしていた。床に脱ぎ捨ててあるワイシャツだけ羽織って、携帯を握り締めいつもの場所へと向かった。カチャっとドアを開けて小さな狭い空間に入って、『真っ白い椅子』に腰掛けて、心なし重たくなった携帯の画面を開き、たくさん詰まった受信ボックスを開く。

(はいはいっと今日は・・・何人からお誘いかしら?)

ルキーノとセックスをした後はたいていモーニングコールをし忘れてしまって、・・・いやモーニングコールを頼める状況ではない。時々は朝方まで野獣っぷりを発揮するもんだから、こっちの状況と体力も考えて欲しいくらいだった。そして、互いのプライベートには不干渉、かつルキーノは他の人間と会うために連絡しているところを見たり聞いたりするのも嫌がるから大変なのだ。ルキーノと朝まで過ごす日はたいていこのパターン、朝目が覚めると携帯を握り締めて今いるこの早朝の密室、人目のつかないトイレでメールや電話のチェックと返事をする。ここはルキーノと会った時には最善の空間といってもいい。

(まあ、落ち着くし好きだけどね、トイレ)

「着信回数10回、メール受信30回、結論、俺モテモテ」

便座に足をあげて、背後に体重をかけて行儀の悪いガキみたいな格好をする。椅子に座っているように俺はこの狭い空間をくつろぐ。

「でも今日はなあ・・・、ルキーノの後だから楽な奴と会いたいな」

受信フォルダに連なっている愛人たちの名前を品定めするように眺め、一番楽に遊べる男を選んで、その男に返信をするために携帯をカチカチ鳴らし嘘でできた言葉を打ち込む。

「他の奴にも返信しとかないと拗ねちゃうからな」

モテる男も大変よ、っと自分に言い聞かせて鼻で笑うと、とても愉快だった。男と身体関係なんて最初は望んでいなかったし、セックスするならやはり女のほうがよい。しかし、男が男に興奮して、高揚して、どん底まで溺れて余裕のない顔するのを見るのが楽しかった。射精するときの情けない顔を見るのが快感だった。俺が愛人をやめたいと言えばマンマのことが大好きなガキみたいに縋り付いて離れないでと媚びる。俺がなにか欲しいといえば買ってくれるし、金もくれる。みんな俺の機嫌を伺って俺を縛り付けるために必死で満足させようとする。みんなみんな俺に溺れて、俺を愛してる。それがひどく愉快で、逆支配的で、何かから優越した気分だった。

「・・・えーっと次の奴」

かくいうルキーノはそういう奴とは違う。普段から男前、外で会う時もセックスする時もかなりの男前で、なかなか余裕のない顔を見せてはくれない。やることはすごいが、
一つ一つが丁寧で、まさにセックス慣れした人間。だから一度も俺が主導権というものをとったことがないのもルキーノだ。けど根本はきっと同じはず。一端の赤毛のライオンでも、きっと俺に溺れて、心を擽ってやれば必ず俺に紡ぐ。男前なコイツが俺に縋り付いた時は、きっと今までに味わったことのないくらいの快感なのだろう。俺はだからこそルキーノに会っているのかもしれない。暇つぶし、ヤりたい欲求を満足させることのできる人間、そしてもっと味わったことのない快感への欲求をコイツは満たしてくれると期待して。愛人としての価値は至極高い。

「時間は午後がいいなあ・・・ん・・?‥‥ええ‥!?」

何時に会うか時間を考えながら相手へのメールを打っていると、いきなりトイレのドアが開いた。俺は鍵をしただろうか、ここは公衆便所だったっけかと考えたがどれも違う。鍵はかけてない、だってルキーノは寝てるし今一人だ。ここは公衆便所ではない、だって愛?と快楽の楽園ラブホテルだ、とドアが開いたほんの数秒で結論を出した。俺は真面目に考えて
ドアが開いた方を見やると、その瞳に映し出してはいけない人間を見てしまった。

「ジャン」
「・・・ル、ルキーノ・・!」

前が大きくはだけて、バスローブという意味を果たしていないをバスローブを着用したルキーノがドアを開けて立っていた。

「なに‥してんのけ?」

そうしてトイレに入るとドアを閉めて鍵を掛けた。カチャっという音がやけに怪しさを醸し出しいて、すぐに嫌な予感をさせた。どこかの漫画やドラマじゃあるまいし、なんてこの大男に通じるわけがない。

「鍵ぃ掛けた」
(いやいやいや‥鍵掛けたじゃなくて)
「ルキーノさん、あたし、お取り込み中なんだけど・・・?」

わざと携帯を見せて、ここはプライベートゾーンだと主張する。要はプライベート不干渉の約束事を楯に今から起こりそうな起こってほしくない状況を回避しようとしたのだ。俺は運と勘だけはいいほうだ、と自信を持って言える。今から目の前のライオンといい方向な未来が待っているなんて微塵も想像できなかった。

「なんだ、ションベンしてたんじゃないのか」
「分かる?プライベートなことしてるんだけど・・・」
「俺はてっきりションベンがしたくて下に何も身につけねぇでトイレに駆け込んだのかと思ったぜ?」
「あのなぁ‥、仮にションベンしていても‥入ってくるような‥って」

ルキーノは俺の言葉をガン無視してジリジリ近寄ってくると、しゃがみ込んだ。

「ちょ‥‥うわっ‥!?」

この時ワイシャツしか着ていなかった俺は絶大な後悔を覚えた。しゃがみ込んだルキーノの視界には俺の下半身がいっぱいに映し出される。俺は慌てて両足をくっつけ、ワイシャツの裾を伸ばして必死に隠そうとしたが、ルキーノに脚を開かされると何も身につけていないペニスがあらわになってしまった。

「なっ‥!やめろ‥って!」
「まだ、夜ヤった匂いがするな」
「あのな・・・なに発情してんの!?」

コイツ阿呆かって言いたくなったが、そんなことを言っている暇などない。とにかく手で覆い隠して力いっぱい脚を閉じようと抵抗した。

「‥なっ‥‥わっひあ!」
「色気のねぇ声だ」

そんな抵抗など塵に等しくて、ルキーノの力で皆無になってしまう。再び開放された下半身を、腹を懲らした野獣が美味そうな御馳走を見つけた時の、至極興奮しきってすぐにでも捕らえて貪り尽くしたいというような顔付きだった。

「て‥てめぇ‥だから今は朝でしかもプライベート‥」
「ヤりたい時にヤる、それがお前と俺、だろ?」
「‥‥‥‥‥(ダメだ‥)」

血の気がさああっと引いた。血の気が引くとはこういうことをいうのだろうと初めて知った。ルキーノは得意顔で笑みを零すと、足の指先にキスをしてきた。親指を口に含んでルキーノのぬめったい舌が触れる。チュパッと飴を舐めるように足指を堪能して、指と指の間を丹念に舐める。

「く‥すぐってぇ‥ょ‥」
「そうにはみえないけどな」
「や‥やだ‥!」

足を持ち上げて下半身がさらけ出されると、先程の足を舐められて最悪にも感じてしまった素直なペニスがワイシャツからだらし無く見えていた。

「ここは素直だぜぇ、ジャン。ほら、もう少し前来い」
「な‥‥なん‥‥‥」
「この俺がしゃぶってやるんだよ、感謝するんだな」
「‥‥や‥うそ‥あ‥‥あ!」

ルキーノに腰を引き寄せられると、深く便座の上に座っていた身体が前方に移動した。足を上げて便座に乗っかっていたのに前に来たことで乗っかることが出来ない。行き場を失った足は地面に降ろし、本当に普通に真っ白な椅子に座っている格好になった。

「ルキーノ‥やめ‥‥ぁ!」

このただ足をおおっぴろげて座ってるだけの間抜けな格好で俺はルキーノにペニスを咥えられている。儚くも勃起してしまった俺のペニスはルキーノの顔面に堂々と曝け出され、自ら舐めてくれといっているようなものだった。

「‥‥んっ‥‥ん!」
「ちいさくて可愛いな」
「‥‥な‥言う‥な‥!」

ペニスに小鳥のような唇で先端にキスをして、デカイ口の中に放り込まれ、羞恥で身体が強張ってペニスにビクンと震えた。裏筋、玉袋、そして棹を一通り舐められて、先端にチクッと歯が立つ。

「‥は‥ん、‥‥ゃ‥キーノ‥もっ‥放して‥」

俺は身体だけでなく足もビクビク震え、痙攣しはじめた。座っていなかったら、すぐにでも床にへたり込んでしまうだろう。認めたくはない、この状況で認めたくはないが、あまりの気持ち良さに、腰がしなる。ルキーノのセックステクはピカイチだと言ってしえるのは、やはり気持ちがいいからだ。矛盾していると呆れつつも、迫りくる射精感と、同時に何か別の高揚感が訪れて余計に身体が震えた。

「‥‥ル‥キーノ、出‥ちゃ‥」
「いいぜ、まず一発出しとけ」
「‥‥がう‥違っ‥‥」
「はあ?」
「‥‥‥‥ショ‥‥‥ベン出‥ちゃ‥‥」

気付いた時にはすでに手遅れ。俺は尿がしたい、とそろそろ危ないという時に気付き必死で二つの拷問に耐えようとしたが、ルキーノは俺の懇願を再びガン無視し、ニコリと厭らしく笑うと、先端に舌をグリッいれて、思い切り歯を立てた。俺は突然の刺激に背骨からビリビリ電流が流れると、ペニスの先端から白く濁った液体と黄色い液体を同時に吐き出す。

「‥‥や‥や‥放し‥も・・ああ!」

ルキーノは俺が無節操にびゅーびゅー放っているにも関わらずペニスを咥えたままだった。俺はそれを直視することが出来ず手で顔を覆い隠す。男に自分の精液‥ましてや尿までも飲まれるなんて初めての経験でありえないと思うと同時に、咥えられて舐められただけで尿まで出しちまう自分の情けなさが俺の心を支配した。

「‥‥ふっ‥うう・・この変態っ!」

だいぶ放つ勢いが収まってくるとルキーノは口からペニスを放し、顔を上げる。ごきゅっと小さく唸る喉を見せ付けて、俺の混ざった液体で膨らませた口を俺の口へ押し付けた。

「‥‥‥!!!!」

声にならない叫びとはこのことだろうか。ルキーノは何をするかと思えば俺の液体で膨らませた口を押し付けキスをしてきた。そして唇をこじ開けると、それを口移しで流し込む。俺は自分の出した精液と尿を飲まされてると思うと、喘ぎ声も出なかった。青臭い匂いと苦みが俺の口内に広がる。我のもの、ではあるが流石に嫌悪感に苛まれた。

「‥‥ぷはっ‥はっは‥ぅぇ‥」
「こらこら、吐き出すなよ」
「‥‥んてことしてんだ‥」
「自分の精液とションベン飲ませたがなにか?」
「‥‥アンタッ‥!も、やめ‥‥んぅっ‥」

ルキーノは中腰しになりガブリと唇に噛み付くと、おまけに舌までも噛んできた。ちくりと痛み、口内に鉄の味が追加されて、たいそう風味のよくない料理の匂いが広がった。

「‥‥てぇ‥噛みや‥‥て‥」
「ほらぁ、ジャン」

立ち上がって、イったばかりで力の入らない俺を立たせて、便座にルキーノは腰掛けた。俺はまた嫌な予感がして逃げようとフラフラする足をドアの方へ動かそうとしたが、捕らえた獲物は死ぬまで逃がさないという野獣に制止されてしまった。

「相向かいに俺の上に乗れよ」
「だから‥‥もうやだって言ってるだろ‥」

今、目の前にいるこの赤毛ライオンはいつもと違う。おかしい。強引で、冷たい。そんな気がした。いや、する。

「・・・・もしかして‥‥妬いてるのけ?」

だから俺は思った。やっぱり他の奴と連絡してるところを見てしまって機嫌が悪いのだと。その嫉妬と憂さ晴らしに俺を抱こうとしていると。

「俺とアンタは、愛人でしょ?」
「ああ‥そうだな」
「だったら、それでやってるんだから、嫉妬なんて」
「嫉妬?」
「そう嫉妬。俺はこれから予定あるし、そんな嫉妬に付き合う暇はないのよ」

こっちはきちんと約束事を守ってルキーノに気まで遣ってこうやってルキーノのいないトイレで連絡していたのに。邪魔してきたのもルキーノ、俺のプライベートに干渉して気を取られて嫉妬してんのもルキーノ、俺はなんにもルキーノの気に障ることはしていない。要はコイツの独りよがりだ。俺は便座に腰掛けたルキーノを見下して、もしかしたら俺が望んでるルキーノが拝めるんじゃないかと思い一発大きな爆弾を落としてやった。

「惨めじゃなぁい?」

かつかなり苛々していたもんだから、つい素直に思っていること、いいや俺が愛人に望んでることを口走ってしまう。

「まぁ、俺の為に惨めになる男‥見るのはすんごく楽しいわよ‥?」

勝った‥と勝手にルキーノと勝負したような感覚でルキーノを睨みつけてやった。これで呆れてくれるか、他の男と同じように俺に縋り付いて謝ってこれ以上のことはやめてくれる。そして俺はこの男前のルキーノを嘲笑って、最高の快感を得ることが出来るのではないかと思った。しかし当の本人は無表情で俺を見つめる。そして捕まれていた腕をキツク握り締めると俺を引き寄せた。

「金髪のわんわんがなにを吠えたかと思えば」

ルキーノは無理矢理俺を上に乗っからせた。俺はこういう男にとってはすごく大きな爆弾を落としたつもりだったのに顔色一つ変えないルキーノを見て虫酸が走った。

(なんなの・・・)

「‥‥んだよ‥この野郎‥」
「口調まで粗くなったな」
「アンタだってポーカーフェイスなんじゃないの」
「たまには強暴犬もそそるぜ?」
「は‥くっそ‥‥‥ひっ‥!?」
「流石に慣らさないとキツイか?」
「‥い‥ぃき‥なり‥ああ!!」
「夜あれだけヤったのにな」
「‥んぅ‥ひっぅ‥ぃ‥てぇ‥!」
「‥‥ほら、全部くわえ込んだぜお前の穴」

会話が噛み合ってないのに苛々が募ったが、そんな気持ちとは裏腹にルキーノは俺の腰を掴むと、何の前触れもなしに後孔に挿入してきた。腰がゆっくりと下へ動かされルキーノのペニスが埋まってゆく。あれだけ夜にヤったとはいえ慣らされていないのは流石に痛みを伴い、またルキーノが人並以上にデカイから余計だった。

「‥‥く‥‥‥そっ‥‥ル、キーノ!」
「まだ余裕そうだな」
「あ‥!はっ、ぁ‥!」

腰を勢いよく落とされ、ルキーノも自ら腰を突き立てた。俺は奥深く刺さる刺激と快感にだらし無く声が漏れる。だんだん慣れてくると、中が気持ちよくて、良いところになかなか当たってくれないのにもどかしさを覚えはじめてしまう。

「‥あ、あ、あ‥‥は‥っ‥ん」
「自分でいいところをゴリゴリしてみろよ」
「ふっ‥キーノ‥‥く・・・そ・・っ」
「ほら、腰落とせ」
「‥‥は、ぁ‥‥っそ・・・」

煮え切らない気持ちだが、ジワジワ身体を侵食している快楽には勝てなかった。俺は恐る恐る腰を上下に動かして、自分のいい、好きなところにルキーノのペニスを当てる。当たって突っつかれればやっぱり溢れた快感が俺を襲った。

う゛ーう゛ーう゛ーう゛ー

「はっ‥‥でん、わ‥?」

しばらくこの負けともいえる行為に気を病んでいると、先程からずっと握りしめていた携帯が振動した。それは七色のランプを光らせて小刻みに震えている。愛人からの連絡なのは間違いない。俺は片言で電話だと言って腰を動かすのをやめて、ルキーノに振動した携帯を見せた。そして俺は次なる勝負が出来ると携帯を振りかざして思った。もう不干渉なんて関係ない。ルキーノに俺と別の愛人が電話しているところを見せ付けて今度こそぎゃふんといわせてやる、と再びルキーノと勝負して勝てるかもしれないという淡い期待があった。

「‥‥ルキーノ‥これ聞こえる」
「出ろよ」
「‥‥‥はっ‥言われなく、ても」
「別に構わないさ‥ほらいいところだったが止めてやる」
「‥‥‥もしもし」

ルキーノがおとなしくなったので、俺は電話に出た。相手は今日遊ぶ予定の男。ルキーノよりは断絶格下だが、軽く遊ぶには一番いい相手。俺は努めて平静を装い電話口から声を漏らす。

「‥はぁい、ダーリン。今日のこと、時間夜でいいかしら?」

本当は午後から会うつもりだったがこの野獣に捕まってしまったためにそれは到底無理だった。
「体調?悪くないよ、優しいのね心配してくれて」

口から適当に出た言霊を淡々と言う。別に思っていることじゃない。だって、みんな俺のためを思って優しいから。

「‥‥じゃぁ、今日は‥ぁ‥!」

すると俺の下でおとなしく待っていたルキーノが案の定腰を突き上げてきた。やってくるだろうことは分かってはいたから、コチラもこれが勝負だと思って声を抑える気持ちと覚悟をしていた。

「んん‥なんでもない、ちょっと作業しながら電話してる、だけ」

俺は突き上げられる苦しみと快感に歯を食いしばって堪えた。意識していれば耐えることが出来ると踏んでいたが、変な汗が出て、吐息が粗くなる。それでも感じまいと、平然と愛人と喋ってやろうと、絶対に負けたくないという気持ちでいっぱいだった。

「ねえ‥‥今日は‥なにして遊んで、くれる?」

そしてルキーノの様子を伺うとやはり無表情で顔色一つ変えない。その人事のような表情も、冷たい瞳も気に入らない。本当は俺のことでいっぱいなくせに、俺はアンタだけのものだってそう思ってるくせに、今だって本当はイライラしているくせに、無表情で余裕ぶっこいたその態度が、全てが気に食わない。

(どうやったらコイツに勝てる・・・)

「そう、じゃあコスプレしあぁ!‥ふっぁ!」

ルキーノはいきなり俺のペニスをギリっと握りしめてきた。俺は突然の痛みに呆気なく声が漏れる。相手は困惑した声色でどうしたのかを聞いてくるが、俺は強く握りしめられている痛みに返事が返せない。

「‥‥ぁ‥て‥めぇ」
「コスプレはダメだな」
「は‥!?あ、ちょっ!」

大人しくしていた野獣は俺から携帯を奪うと、耳にあて、濡れた唇を開く。

「コスプレはまだ俺がやってねえ」
「ルキーノ‥!」
「だからジャンは俺のだな」

結論が合理的理由を伴って論証されていない。そんな科学的な言語理論を頭で考えながら俺は唖然として電話の向こう側にいる相手に一方的に会話するルキーノを見るしかなかった。そうして俺の携帯を投げ捨てるとそれは壁に当たって無惨に床に落ちた。プープーっと通話が切れた音がした。

「‥‥なにすんだよ!?」
「おいおい、コスプレは聞いてねぇぞ」
「は!?いや、違うだろ!電話!!!」
「俺はまだコスプレしたジャンなんて見てねぇが」
「だから‥!!ああもう‥アンタ一体なんなんだよう‥‥」

俺はまたルキーノに負けてしまったのと、心の底からガチ切れしているのと、羞恥と後悔と、そしてルキーノ態度に心がモヤモヤしているので頭がぐるぐる回ってもう収集がつかなくなった。気を遣ってやれば、それをガン無視される。余裕をかましてやろうと思えば、自分だけが余裕じゃなくなってしまう。苛めてやろうと思えば、逆に苛め返される。やることなすこと全部ルキーノには通用しないし、今のやけに冷たい態度がなんだか切なくて、寂しい。

「なぁ‥ジャン」
「‥う‥触ん‥な!・・ばかやろう・・!!」
「俺とお前しかいないこの密室は、俺達だけのものだ。そうして脳髄おかしくなるまでセックスして俺だけのものだって思わせてやる」
「‥‥はぁ‥‥‥はっ‥も・・・してる気分なんだろ‥‥なに‥、おれだけ追い詰めてやっと認めるわけ‥」
「俺じゃない」
「は‥??」
「ジャンにそう思わせるんだ」

ルキーノは俺の頬に手を添えて、ゴツい親指で目を擦られた。俺はさっきから目が霞んで、なにかしょっぱいものを感じた。

「少し虐めすぎたか?」

ルキーノは頭を引き寄せて唇に今までの貪りつくすようなものとは違う優しいキスをすると、腰を再び突き上げた。

「‥‥‥ん!ん、あ‥!!」

いいところにしか当たらなくて、ものすごいスピードで突き上げられて頭がおかしくなりそうだった。もうなっていた。ルキーノは、小さく笑って何度も俺に優しいキスをくれる。ルキーノの瞳にオレンジ色がユラユラ揺らめいていて、汗をうっすらかいていて妖艶に微笑む顔はやっぱり男らしい。狭い密室に立ち込める空気は蒸気して、雄の匂いでさらに圧迫される。

「‥‥‥ふっ‥あ‥ルキー‥ノ・・・」
「なんだ?」
「も‥‥‥イ‥‥く‥‥」
「俺もだぜ、ジャン」

俺は迫り来る絶頂の中で、俺はもうどうでもよくなってルキーノにしがみついた。そうしてルキーノにキスを求めて、泣く。目が霞んでよく見えなかったがルキーノの顔が俺の視界にいっぱいひろがった。そこで、俺は見た。口元を緩やかに吊り上げて笑ってはいるが、目を細めて、眉根をハの字にさせて、頬を薄く紅葉させて、くしゃりと歪ませて俺も見るルキーノを。その顔はまさに余裕なんてものなどなかった。これが俺が望んでいた男前ルキーノの顔、あれだけ通用しなかった勝負の最後に現われた本性。きっと本性、俺は無理やりにでもそう思いたかった。そして至極の快楽は諧謔的な快感ではない、心がなにか分厚いものに包まれる安心感と幸福感のようなものだった。

(これが、至極???)

「あ、あ‥イ‥く‥ぅ!」
「‥っジャン・・!」
「ふぁぁ‥‥ぁ‥ぁ!」

腰を引き付けられて深く沈むと、ルキーノのペニスが中で爆発したのが分かった。内壁をたたき付けるように射精される感覚に俺も身体も震わせ背筋をエビのようにしならせて自分の腹とルキーノの腹に射精した。

「‥ははっ‥とまらねぇ」
「‥‥ぁ‥ぁぁ‥ビクって‥」

長い射精に身体がブルブル震え余韻に浸ってしまう。ルキーノが全てを吐き出して満足したように俺の中からペニスを引き抜くと、質量を増した精液が零れ出てきた。俺は疲労感ろ達した脱力でルキーノにもたれかかり、肩で大きく息をして呼吸を整えた。

「・・・・バカ・・・野郎・・・」

俺は拳をギリッと握り、胸を叩いた。するとルキーノに思い切り抱きしめられる。首筋が唇にあたり、身体全部がルキーノに覆いつくされた。

「俺が嫉妬してるって言ったよな」
「・・・・はあ・・はっ・・・」
「心臓が破裂しそうなくらいしてるの分かるか?」
「・・・・・・」

手を胸にそっと当てると、ルキーノの鼓動が鳴った。それはとても速かった。

「あまり俺を怒らせるなよ、ジャン」
「・・・・自分勝手・・・」
「ああ、俺は自分勝手だ」
「・・・・最低・・・変態・・・いっぺん死ね」

「はは、なんとでも言え」

俺の思ったとおり、こいつも俺の為に惨めになった。
俺は勝負に負けていたようで実はずっと勝っていた。
でも、何故だろう。今なら嘲笑うことができるのに嘲笑ってやれない。素直に喜べない。

「で、俺はジャンのものだって思ったか?」
「・・・・思わ、ねえよ」
「そうか」

そう言い放つとルキーノの顔がまた無表情に戻った。そうして跨らせていた俺を立たせてどかすと、風呂へ入れと促してきた。

「じゃあまた遊んでくれよな、“お前だけの俺”と」

密室になって籠もっていたトイレが開放され、何もない清清しい空気が混ざりこんだ。

「さき、入っちまえよ、約束、あんだろ?」

そう最後に言って大きな背中を向けたルキーノを見つめて、寝室へと姿を消したのを確認すると投げつけられて床で弱弱しく七色のランプを点滅させて泣いていた携帯を掴むと風呂へいった。



ルキーノはそれから俺と会わなくなった。









(早朝の密室)
20110224
・・・・・・・・・・・・・・・・
ルキーノは色々レヴェルが高いので頑張らねば!と思っていたら逆に頑張りすぎたのか無駄に長くなってしまった・・。情事のシーンを書くのが辛すぎました。あとジャンさんをビッチにしたかったけど、結局そんなビッチにできなかったとです。最後はもうワケが分からなくなりましたさーせん。。























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