ありふれた非日常
ジュリオ誕SS4










俺はこの空間と時間が好きだ。ジャンさんと二人だけの隠れ家で一緒に過ごすこのありふれた非日常が。俺にとってこれはありふれた日常ではない。少し前――ジャンさんと刑務所で再会するまで俺にはこんな空間も時間も、そして隣にジャンさんがいるということなんてなかったのだ。

「ジューリオッおっはよー」
「あ‥おはよう、ございます」
「よく寝れたけ?」
「はい‥‥あなたが‥いたから‥よく‥」
「‥なっ!‥ばっ‥か‥っそれより朝飯、できた」

サラサラとした金髪が揺れ、強さと幸運を秘めた鋭い瞳をキョロキョロさせて、少しだけ染まった頬を手で覆い隠して、ジャンさんは馬鹿野郎と吐き捨てた。上半身が裸だった俺は脱ぎ捨ててあったワイシャツを掴み、いそいそと袖を通すものの、うまくボタンが掛けられずジャンさんを待たせてしまう。

「早く、しろよう‥着せてやっから‥」
「す‥すみません‥」
「ったく、ホントにガキみたいだなあ」

ボタンができない不器用な俺にワイシャツを着せてくれるジャンさん。ガキみたいだとぶつぶつ呟いて、しかしその表情はなんだか楽しそうだった。瞼を下げて頬を緩ませ唇元が綻んでいる。先程のどぎまぎとした仕草とは違い今度は母親のような優しさと温かさに満ちた表情になった。

「‥うっ」
「?ジャン、さん?」
「‥‥ジュリオの匂いがしてて勃っちまいそ‥」
「へ‥??ぁ‥」

母親の温かさというような心地好さを感じていた俺にいきなり抱き着いたジャンさんは、指でシャツをくしゃりと歪ませて鼻を胸に押し当て、すんすんと匂いを嗅ぐ。抱きしめ返せばくるまってしまうジャンさんの小さな身体はピクピクと震え、微かに当たる硬くなったものが俺を困惑させる。

「‥‥わりぃ」
「‥あ‥いえ‥‥」
「‥‥‥んー!あー!ジュリオ‥」
「‥は、はい」

ジャンさんはしっかりと俺にしがみついて、顔を上にあげて俺を見る。頬を先程よりも熱く、濃く蒸気させて、強さの象徴とも言える瞳を細めて、誘うように舌を唇から少し出す。

「キス、くれ‥」

そう命令されたら従うほかなにもない。命令通りキスを落とせばジャンさんの唇はふやけていて柔らかかった。ジャンさんは喜びに喉を鳴らすと瞼を暗闇に落とし眉根を寄せて頬を真っ赤に染めて少女のような仕草で俺に身を預け、舌を求めてきた。

「‥‥ふぁ‥ん、やべ‥‥」
「あ‥すみません‥」
「‥‥‥ん‥‥ちがう‥俺こそ朝からわりぃ‥とりあえず‥飯食おう‥」

自制がきかなくて困るわと頭をわしゃわしゃ掻いて物寂しげに俺から離れる。熱を帯びはじめた雄を隠すように、まだ余裕のない顔だけをこちらに向けた。

「あ、今日は夜から会議だ」
「役員の‥‥」
「そ、じぃさん共相手にな。だーかーらっ‥」

ジャンさんは首を傾げて、整われた歯を、犬のように尖った八重歯をチラリと覗かせて

「午前中は一緒にいてな」

まさに太陽のような、眩しいほどの笑みを俺に照らした。

「は‥はい‥!」
「まず朝飯、続きは‥それから‥、‥ほら!」

手を差し出されて俺は立ち上がり、その手にそっと手を重ねる。家の中でなにしてんだと呆れたように繋がった手をブラブラさせて見せびらかすと、ジャンさんは指をそっと絡める。

「ふふん、幸せだけどな」

ジャンさんは忙しくて心配になってしまうほどにたくさんの仕草を見せてくれる。普段は見せない、今まで見たことのなかったジャンさんを俺に見せてくれる。ありふれた日常ではない、ありふれた非日常を俺に与えてくれる。夢でも幻想でもない非日常を、当たり前のありふれたものとしてジャンさんは俺とこの空間と時間を共有してくれるのだ。










(ありふれた非日常)
20110215
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切迫詰まった。ほのぼのではない気がしますがどうかほのぼのという括りにしてやってください。


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