ある自由論者は言う
ジュリオ誕SS1





与えられた自由を貪欲にむさぼっているだけの日々に、俺はその自由という無限で形のない巨大な牢獄の中に閉じ込められているということに気付いた。しかしそこから逃げ出すことなど出来ない、そして与えられなくなった自由の代わりに与えられる退屈という空虚に囚われる苦しみよりはマシだと思った。

「お前の自由は苦しみだけに満ち足りた地獄のようだ」

ある時、あなたに言われた。俺は与えられた自由を自分自身の自由として行使している。ナイフを突き立て皮膚の柔らかさと骨のあたる感触に高揚を覚えて、流れ出る血を舐め、あらわになる臓器を掲げて、与えられた自由を今まさに行使出来たとどこかの国が自由を勝ち取った時のように天を見上げ歓喜する。これが精神的快楽となり、至極の幸福に満たされる。意思なき自由損失者を、意思ある自由所有者がどうしようが他人には関係ない。それは全て御祖父様に教えられ、与えられた。絶対的に正しくて、自由を所有できる、俺が自由と幸福を手にすることが出来る唯一の手段だと知った。それが俺の牢獄の中で生きる唯一の快楽の求め方だと思っていた。

「ジャ、ンさんは‥苦しい‥?」
「苦しい‥でもジュリオ‥、本当は、お前が一番苦しいんだろ‥?」
あなたは俺にそう言った。
「お前が行使する自由ってやつは誰も、自分も幸せにはなれない。偽りの幸せでさえも感じることはできない」
「自由ってのはな‥自分も他人も苦しんじゃいけねぇんだ」
「だからんなの簡単には手に入らねぇ‥退屈への恐怖と嘘の自由に俺達は閉じ込められてたんだ」
「でも‥そんな中で必死に本当の自由を求めて幸せになろうしてんだよ」
あなたは震える唇を精一杯に噛んで、その小さな身体で俺を包み込んだ。
「俺はジュリオに与えたいし、与えられたい」
この時俺は、俺の自由を、真実であるはずだった自由を、最愛の人に否定されることにより失った。
「ジャ‥、い、です‥俺、本当は‥苦しい」
しかしあなたの言うことは正しかった。御祖父様に教えられたことを真実とし、俺はそれが俺に与えられた唯一の自由と幸福だと信じざるを得なかった。なぜなら、俺にはそれしか無かったから。
「なら、そんなのやめろ‥やめてくれよ‥。俺がお前をその地獄の牢獄から出してやるからさ」
血の匂いが染み付いた服に鼻を押し付けて匂いを嗅ぐ。
「今度は俺と一緒に。せめて苦しみは半分に、幸せを求めて、共有したい」
俺の顔を見上げればあたなは泣いていた。
「ごめんな、ジュリオ」
あなたは涙を流し、血のついた唇に優しいキスを一つくれた。
俺はあなたの中で改めて知った。俺の自由をあなたに否定されることは俺を牢獄から連れ出してくれる鍵だったのだ。差し延べられた手をそっと掴んで俺はあなたと再び自由への牢獄へと囚われる。それはまた苦しみと、ある自由論者の語る矛盾を生み出す。それでも本物の自由とそこから得られる幸福を求めて、俺はあなたと苦しみを、偽りの自由と幸福を共有する。

ああ、俺は救われたのだ。

それでも、救われたのだ。






(ある自由論者は言う)
20110215
・・・・・・・・・・
ある哲学者の自由についての考えの矛盾点なんかを取り入れてますが、ジャンさんがすごく哲学者っぽい発言しっぱなしでしたね。自由ってようわからんもんで、ジャンさんがジュリオに死体で遊ぶのやめて‥!他に自由も幸福もあるだろい!って言いたかっただけなのに、どうしてこうなったと自分でも思う文章‥。。そして誕生日には関係ない。
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