勝利≠他人








俺は青峰大輝という人間が嫌いだ。

(なーんだ、やっぱり、俺の期待は、ハズレ、かよ)

アイツの、俺を蔑む笑い声が聞こえる。ヒドい負け方をした。アイツには、全く歯が立たなかった。黄瀬、緑間…キセキ世代と言われた奴らを倒すという目標は、一度アイツにぶっ壊された。きっとアイツには、俺みたいな奴ちっぽけにしか思っていない。あの笑い声が耳に響く。俺は無心になって考えた。あの後、足の怪我で練習がろくに出来なかったから、フラフラと街中を歩く。少しだけ、足がチクリと痛む。
(…なあ、もっと俺を楽しませろよ?大我くんよ?)
余裕綽々な顔が、目に映る。
(黒子も、可哀相になあ。はは、むしろお前も可哀相か)
俺も黒子も可哀相だって?
しかし何を言われても、アイツには勝てない。ふと歩く足が止まる。ストリートバスケが出来る所だった。そこで俺は、会いたくないある奴を見た。
バスケをする、青峰大輝を。
やけに黒い肌に、白いTシャツが目立つ。汗がほとばしる。それから俺は目が離せなかった。
アイツのバスケは、綺麗だ。真剣な目でリングを見据える目は、俺たちとやった時にはしていなかった。ひどく独創的な世界なのに、それに惹きつけられる。俺たちは、こんな奴に負けたんだ。
俺はこいつのバスケを見て思った。俺も同じ、ずっと勝つことだけ考えていた。黄瀬、緑間に勝った、それが俺を錯乱させた。

本当は、まだ誰にも勝っちゃいない。

(アイツに勝てねえのは、自分に勝てねえからだ)

「……たーいがくん、よ」

俺は放心して突っ立っていると、いきなり顔面に、汗をかいた黒い物体が現れた。

「……っ!」

俺はそれが青峰だと分かると、不意に恥ずかしくなり、また悔しくなり、逃げようとする。

「待てよ」

すると手を掴まれ、逃げるのを阻止された。汗でべとついて、少し気持ち悪かった。

「離せ…!っ気持ち悪ぃんだよ」

手をギリっと掴まれる。口を吊り上げて、余裕を浮かべた顔はひどく俺の心を怒りで掻き立てる。

「もしかして覗き見かよ?」
「ち、ちげえよ!」
「ああ、そー」

いきなりフェンスに押し付けられ、青峰の顔が間近に見えた。俺はこの状況に混乱しながら、力尽くで振り払おうとするも、青峰の力の強さに屈する。

「い…いいから、離せよ!」
「気になったんだけど、なんで泣いてんだ?」

は? 泣いてる?
俺は状況が掴めなくなった。

(…俺は泣いているのか)

「ほらー」

ベロリと舌で舐められる。

「…や、やめろ気持ちわりぃ!」
「俺のバスケに見とれてたのか、単なる泣き虫か、それとも―――負けたのが、んなに悔しかったのか」

俺は目を見開く。

「分かりやすいな大我くんはよ」
「…ち、違ぇ」
「俺に勝てるのは、俺だけだ」
「…んなこと……ねえ。絶対、俺が、いや俺たちが、目ぇ覚まさしてや…っ!?」

青峰に唇を塞がれた。熱気が伝わる。汗の香りが鼻につく。そして生温かい舌が、半開きになった口に侵入し、絡みつく。

「ゃ、やめ……っ…ろ…ン」

俺もコイツに負けないくらい図体はデカいのに、完全に青峰の成すままだった。
唇が離されると、羞恥で顔が真っ赤になる。それを見た青峰は満面の笑みを浮かべて、舌で濡れた唇を舐めた。

「水分補給にはなんねーなあ」
「…ふ、はっ……なにすっ…」
「なあ、大我」
「気安く、…呼ぶな」
「俺に勝ちてぇなら、もっと苦しまねえとなあ」

髪の毛を掴まれ、青峰の耳元に顔を寄せられる。

「泣くくらい悔しかったら、俺をもっと楽しませろよ?」

笑いを含んだ声が耳元に木霊する。

「そしたら、自分にだって勝てる、だろ?」
「!」

俺は硬直した。
青峰には、分かっている。
コイツには、全て、お見通しなのか。

「ま、泣いてる顔が可愛かったから、ずっとこのままでも良いけどよ」
「……っ!、るせえ!」
「キスの時の声も照れた顔も、図体の割には女みてえだなあ…。もしかして…お前…」

俺はさっきからのコイツの有り得ない行為と癪にさわる言動に怒りが爆発し、デコに頭突きしてやろうと思ったが、見事にかわされた。

「…っあー、今日はいつもより真面目にやった。腹減った。帰る」
「あ、青峰!お前、待ちやがれ!」
「じゃあな、泣き虫大我くん?」

ボールを抱えると、青峰は去っていく。一度だけ振り返った時、あの忘れることの出来ない余裕綽々の笑みと表情が怒り狂った俺の目を確実に捕らえていた。唇をゴシゴシと手で拭く。やっぱり、俺は青峰大輝という人間が嫌いだ。







(勝利≠他人)
20100506
・・・・・・・・・・
青火の需要がない寂しい中、私は一番青火が好きです。図体デカイ二人が汗くさい中キスするってのもアレですが、‥ふむ‥美味しいぜちくしょう‥!
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