ベルナルドの憂鬱
〜ベルナルド誕生日SS〜










俺は毎年6月14日が来るたびに、1日が鬱で満たされる。
1年に1度やってくる自分がこの世界に落とされた日。
生命を授かった日。
きっと子供だったら待ち遠しかっただろう。欲しいものをプレゼントしてくれて、年の数の蝋燭をふぅっと消しケーキを食べる、誕生日という日が。しかし「誕生日」いう日が待ち遠しい歳ではもうない。そう。今日がその日である俺は今年で32歳になるのだが………、年を重ねるごとに感じる身体の衰え(幸い激しいアクションはジュリオがいるから良いのだが…)、さらに疲労が溜まりやすくなったと同時に早寝早起きの習慣がつき、新聞も読みづらい……完全に老化が進んでいる。
そして極めつけは、髪の毛の生え際。
俺以外のCR:5の奴らはまだ20代。イヴァンなんて一回り離れている。今を時めく若造の中、俺は……俺だけが……。
死ぬ時はみんな一緒だと言ったのに、彼らの活発さと元気さを目の当たりにすると、先に逝くのは俺…あぁなんかこう胸が切なくなるもんだ。
ジャンはよく俺をハry………い、言いたくない…。
ジャンこれだけは言わせてくれないか。
「ハゲ」は死語だ。
この世にそんな言葉などもはや存在しない。と言っておく。
俺はデスクに山積みになった書類をパラパラとって物思いに耽る。
(出来れば、誰も今日俺が誕生日だと知らなければいいがな)
すると、扉が開く音がした。
「チャオ、ベルナルド」
扉が開いた方を視界に捉えれば、ジャンと、ジャンの後ろに他の幹部がぞろぞろといたのだ。
「…あ、ああ、ジャン、それにみんなも、おはよう」
「よお、ベルナルド」
「おはようございます」
「…はよっす」
「ジャン、みんなも揃って、何かあったのか」
「んっふふ、ベルナル、ド」
「ん?」
ジャンはニッコリと笑うと、後ろにいるみんなの方に振り返りなにやら合図を送る。
(…いい?)
(ああ)
(じゃぁ、皆さん、声を揃えてぇ…)
「せーのっっ」
『誕生日、おめでとう!!』
一斉に揃ったCR:5
見事に高低音のハモった声が響いた。クラッカーがパーンと鳴ったような気がした。俺はポカンとした表情でジャンたちを見つめる。
「…」
ニヤニヤするジャンと、苦笑したルキーノ、うざそうに頭をかくイヴァン、特に何も変わらないジュリオ。
「…ったく、ガキくせぇことさせんな!」
「まぁ、確かに、ベルナルドもビックリのご様子だしな」
「…俺は……ジャン、さんの提案は良いと思いました、けど」
「まぁまぁ、ってわけで、ベルナルド。誕生日だろん」
「……え、あ、あぁ。そうだったな」
「なーに恥ずかしがってるのけ?もしかして嬉しかった?」
「あ、あぁ。ありがとう、ジャン。正直、嬉しくて驚いてるよ」
頭の整理がつかないまま、俺はジャンや他の幹部に礼を言う。
「みんなで、一緒に言えて、やっぱり良かったですね…ジャン、さん」
「おぉ、一人よりみんなで祝った方が、ベルナルドも嬉しいかなってっなへへっ!」
「ったく…、だからってみんな一緒にプレゼントを買いに行くことねぇーだろうが」
「あれぇ…、どこの誰だっけ?贈り物を何にするか決める時すごーく熱心だったのは…?」
「…なっ!!!!、くぅー!!、て、てめぇジャン!!」
「イヴァンはあーだこーだと細かかったよなぁ」
「あ゛ぁぁルキーノ…!」
「まあ、結局、最後まで決まらなくて満場一致でアレになったけど、――――ですよ、ね…ジャン、さん」
「ん、まぁな」
俺はジャンたちの会話を無言で聞いていた。先ほどまで、誕生日のことを考えると憂鬱で仕方なかったのに、彼らには知られたくないなどとも思っていたのに。こんなに熱心?に祝い精神を見せつけられて、少しだけ嬉しくなった。気にしていたことが、頭の中からスゥっと消えて、幸福感に満ち満ちた。それに、この為に色々打ち合わせをしたらしい。
(……ふ、可愛いな…)
「ベルナルド」
すると、俺の名前を呼ぶ甘い声が降ってきて我にかえった。
これは、みんなで金出し合って買ったプレゼントなのよ」
「ジャン、みんな…」
こうやって、プレゼントを貰えることも、本当は幸せで嬉しいことなんだと思う。
「ありがとう、な。中身開けて良いかな」
「どーぞどーぞっ」
中くらいの箱にシンプルなラッピングが施されたものだった。丁寧にラッピングをはがす。プレゼントを開ける時の、ワクワクとした気持ちと高揚感が湧き上がる。いくら年を重ねても、やはり気持ちは子供と同じなのだろうか。
いや、きっと彼らだからだ。
彼らだから、俺はいつも嫌いなものを好きになれる。
ジャンが、変えてくれる。
「……なにかな」

こうやって、みんなで、――

(ん?)
箱を開けて、中身が晒された。
(んん?)
俺は、満を持して箱の中身を凝視する。すると、そこには
「はははっ、ベルナルドにはやっぱりコレだよなぁ」
「…ルキーノも、いずれは…」
「や、やめろよジュリオ…」
「コレ探すの大変だったよなあ」
「あぁ、その辺はイヴァンが頑張ってくれたな」
「おぉう、在庫少なかったんだからな」
「ありがとなイヴァン。それよか、コレ高かったねぇ」
(いや、待て)
「ま、待て、みんな」
「んーどうしたのけ?」「こ、これは、なんだ?」
俺は袋に詰まったプレゼントを箱から取り出してジャンたちに見せる。
「なにって、超高級髪男爵セットだけど」
(髪男爵…だと…)
「こ、これは……まさか…」
「育毛剤セット」
「大変だったんだぜ。なかなか手に入らねえ代物でな、俺が裏で手ぇ回してやっとこじつけてだな…」
「金額は、セットで200万でした。小さな育毛剤2本と、えっと…魔法の?櫛と育毛マニュアルだけでです。すごいですよね、ジャン、さん」
「相当すごいらしいぜ。なんでもこれを全て使いきって、その櫛で髪の毛を叩きながらとかせば、育毛どころか、永久に禿げる心配はないだとか」
「魔法の櫛なんざ、嘘くせぇーがな」
「ってわけなんだ、ベルナルド」
「そ、そうか…だがどうして、俺に…これを…」
「最近、生え際気にしてるだろーん。だーかーらぁ、これで予防しときゃもう安泰安泰!それに一つ大きな心配が減るだろ?」

生え際…だと…

(ああああああああああああああああああああああああ!!!!!)
「色々、案が出たんです。ちなみに俺は老眼鏡でした」
(ああああああああ!!!や、やめてくれ…!!)
「俺は、胃薬とか、安眠用アイマスクとか、松葉杖とか。年くうとよく胃もたれ起こすからな」
「あ゛ぁ、てめぇらはデリカシーってもんがねえんだよ。俺ぇは、ちゃんとデリカシーを尊重した」
「あれ、お前なんだったっけ?」
「俺ぇは、入れ歯だ。ある日突然歯がダメになっちまったってこともあるかもしれねぇからなぁ」
「一番デリカシーないだろ…」
「てゆーかそれ、ベルナルドのサイズななのけ?」
「…なんっ、あ゛っ…!!」
(ああああああああ!!!!!本当にやめてくれぇぇぇ!)
(デリカシーはみんな持ってないから!!!!ていうか、俺のこと、今までこんな目で見ていたのか!!)
「俺は、最初から禿げ対策だったけどねぇん。だーって禿げたら…いや、部分禿げの可能性だってあるんだぜ。ある時想像したら、アレが萎えちまった」
「確かに…寒気がするな」
マイ、ハニー…、そこはフォローをいれるべき…。
ああ、もう良いんだ……。
これは運命だ。
年をとるのは罪だが、これは避けられない…のだ。
老化も、生え際も…。
だから、もう、良い、んだ。
誕生日は、嫌いだが、こうやってジャンたちが笑っていて、おめでとうと言ってくれれば…。
(良いんだ、ははは)
「……俺も実はジャン、さんと同じでし…た」
「嘘つけタコ!!さっき老眼鏡って言ってたじゃねーか!」
「…イヴァン、少し黙っててくれないか」
「まぁまぁ、禿げ対策で落ち着いたんだし」
「うんうん、超高級髪男爵セットを使って生え際をって……ベルナルド??」
俺を見た彼らは、口をポカンと開けている。
「ん?」
「……ぁ」
「お、おい…」
「ベ、ベルナルド!!??」
「ちょ、ベルナルド!?」
俺は、意識を失った。
椅子に座って放心したまま意識を飛ばしたのだ。
「…え、お、おいっ…!!おいっ…ベルナルド!死んでねぇよな!」
ジャンが駆け寄って、俺の身体を揺すり頬を叩く。
「ジャン、さん…死んではいませんけど、気絶は、してます」
「え!?きぃ、気絶ぅ!?」
「なんでって気絶なんかすんだよ」
「…まさか…生え際がショックで…」
「はぁあ゛?ほらやっぱり髪男爵より入れ歯にすりゃ良かったんじゃねーか!デリカシーを持ってだな…!」
「あんたが一番持ってない…」
「っ、うるせぇタコ!!」「あー!そ、そんなことはどうでもいい!とりあえずベルナルドを休憩室に!」
「は、はい…ジャン…さん」
「…ったく、これだからオッサンは」
(デリカシーなさすぎだ…イヴァン)
「ほぉら、聞こえたら一生意識戻らねえぞ」
「あ゛あ、気絶してんのにどうやったら聞こえんだよ!」
(ルキーノの言うとおり、聞こえてる…)
「イヴァン、お前も運ぶの手作え」
「だぁ、っるせーな!わぁったよ!」
「なぁルキーノ…ベルナルド、大丈夫かな」
「ん、あぁ、大丈夫だろ。オッサンは根強いからなぁ」
(ルキーノだけには、言われたくな…いのだがな…)
ジャンは心配そうに俺の頬に手をあて、
「いつか必ず禿げって認めさせて、楽にさせてやっからな…」
必殺の言葉をくらわせた。
(…いや、まだ禿げてないよ…ハニー…ていうか、本当にジャン…お前は…色々と可愛い…な…色々と…)
こうして6月14日は結局散々な日になってしまった。
今日をもって6月14日という自分の誕生日は、嫌いの対象ではなく、恐怖の対象になった。しかし、あの一時の幸福感と、みんなのある種の優しさは素直に嬉しかったので、来年は前もってジャンにでも欲しいものを言っておこうと思った。そして、超高級髪男爵…使わせてもらおう。もちろん、みんなには内緒だが、ね。







(ベルナルドの憂鬱)
20100614
・・・・・・・・・・・・・
ベルナルド誕生日おめでとう・・!!すごく可哀相で途中キャラ崩壊したベルおじさんになってしまいましたが、私思うんです。いやむしろラッキードッグをプレイした皆さんも思ったことあるはずです。
みんな禿げフラグじゃね?(^p^)
その中でも個人的にイヴァンが最強だと思うのです。なにあの髪型、人外。デコから禿げるならトップはルキーノ。でもルキーノのは薄々気付いてるから、ベルの理解者。ジャンもジュリオも生え際が際どいと思う。つまりベルナルドだけじゃないと思うのです。すごく愚問でした、すみません。この後、誕生日の夜は、ジャンと甘い甘い夜を過ごすっていう展開が待っているんだから、ね。ベルおじさん許してくださいな!!バーニィ愛してる・・・・!!!
※超高級髪男爵は実際にはありませんw

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