キスの仕方




池袋 帝人のアパート



「で、おまえが通ってる来良学園には可愛い女はいんのか?」
「え、あ、え、?」
「いるのかいねぇのか聞いてんの」
「え、まぁ…いると、思います…けど」
なぜこの状況になったのかよく分からないけれど、今、僕のアパートに、埼玉のギャングである「To羅丸」の総長 六条千景がいる。買い物に出掛けて、帰り際にたまたま道端で会って、それから僕のアパートに来て、今に至る。
「あ、あ、あの…、なぜ池袋に?」
「休みだし、ちょっとブラブラしたかったんだよ。俺のハニー達もいっぱいいるしな」
「そうですか…」
「……」
この状況、気まずい。とにかく、気まずい。一応この前、ゴタゴタがあったわけだし。なんだって、また僕に着いてきたんだろ。とりわけ用もないし、話すこともない。
「なぁ、おまえさ」
「はい?」
「女って言われたことねえ?」
「ええっ…あるわけ、ないですよ」
「んー…、最初に会った時からずっと思ってたんだけどよお」
千景さん?は、ストローハットを被り直し、自分に近付いてきた。僕は、まさか殴られる…と思って、ちょっと身構え後ずさる。
「…!!」
千景さんの手が頬に触れると、肩がビクッとなった。すると頬を優しく引っ張られた。
「……にゃにすふんてふか」
(殴られるかと思った…)
「はは、モチモチしてんなー、」
「ちょっと…いきなりビックリするじゃうわっ!」
気付けば、千景さんがもの凄く目の前にいた。
「な、なななな、なにするんですか!ちょっ、離してください」
「…………おまえさ」
千景さんは真剣な目つきで僕を見る。
これは、確実に殺される。
「女みてぇ」
「…は、はいぃ?」
「このもち肌とか、仕草とか、行動がハニーみてぇなの」
「ハニーって…冗談やめてくださいよ…」
「冗談なら、誰が男なんか押し倒すんだよ」
「押し倒す…って、ぅぁ!」
千景さんは、僕の耳に息を吹きかけてきた。僕は一瞬身体をビクッとさせ、背筋が凍るような思いになった。
「いちいちビヒッテル所とか、その声も女の子みたーい」
女の子みたーい、って…、これホントに冗談じゃないよね。まさかね、あははは…。って笑っている場合じゃない!この不自然かつ危険な状況をどうにかしないと!
「あのー、そろそろ、どいていただけませんか」
「………あん?」
「ごごめんなさい…!」
「…手首も細せぇし、ちゃんと飯食ってんのかよ」
「ちゃんと、たべてますよ…」
「ふーん」
「あのー、だから、「キスしたことある?」
はい?今、なんと仰いました?
「キスしたことあんのかって聞いてんの」
「ききききき、キス!?!?」
「んな驚くって事は、まだか。最近のガキは結構ませてんのにな」
「ガキって…、いや、キスなんて彼女が出来たら、…ですよ」
「俺はハニー達と誰でもするぜ。全員、俺の大切な彼女だしな」
「は、はぁ…それは千景さんらしいのでは」
(ぶっちゃけよく知らないけど)
「当たり前だけどな」
瞬きを何度もして、千景さんの顔を見ると、ニヤリと笑って何か考えている。
悪い予感がした。
「キスしたことねえんなら、俺が直々に教えてやろーか」
「いやいやいやいや!遠慮しておきます…!」
「手前に拒否権ねぇっつたら?」
(ひーーーーーーっ!!)
悪い予感的中してしまったのか!いや、千景さんは男。僕も男だ。そんなこと、絶対ない!
「ホント、コイツがダラーズのボス、ねぇ」
「え、え、あの…」
「キスの仕方を教えてやるよ」
「え、いやいいです!ほら、自分で頑張りますから!」
「……あ?」
(うわぁぁぁ、待ってーーー!!!!)
これは強制ですか?僕に確実に拒否権はないのですか!あー、もう、どうしよう!
「まずはな、んー、まず最初は初々しいノーマルでいくか」
「の、ノーマル?」
「やっちまった方がはえぇ」
「え……っ!」
千景さんは口を鳥のようにすぼめて頬にチュッとキスんすると次に軽く触れるくらいにキスを落とした。
(ホントにやったよこの人ー!!!!)
「出来たてホヤホヤのカップルはな、こう軽く唇をあてるんだよ。からかいもこめてな。にしても、ホントに初めてなのかよ」
「……そう、ですよ…もう終わりですよね……」
「次はスタンダード。唇軽く開け」
「え!?…………んぁ」
僕はまた唇を塞がれた。今度は先ほどと違い短く軽くではなく、唇がすり合わされるように覆い被さった。
「…ん、ぁ…………」
「これ、キスの基本形」
「………っ…」
急に恥ずかしくなって、顔を真っ赤にしてしまった。
「………(やべっ)」
「も、もう終わりですよね…」
「いや、次は、趣向をかえんだよ」
「………んん…!」
今度は、さっきより少しは軽いが、何度も角度を変えながら、唇を塞がれた。最後に息をするために半開きになっていた口に侵入して歯列をなぞった。ストローハットがパサッと落ちたのが分かった。
「ん、おまえ、初めての割には、受け応えがいいな。もしかしてマゾか」
「……っ、はぁ……マゾなんかじゃ、ないですっ」
もう僕は千景さんとのキスで半分以上力が抜けていた。キスをしたことは本当に無かったから、どんなものかと好奇心半分、願望半分思っていた。…だけなのに。こんな、心がだんだん変になってくるものなのかな。なんだか、唇が熱いし、身体も少し熱い。よく分からない気持ちになる。
「ちっ」
「………?」
「……やめろその顔。おまえ、たくさんのハニーとキスした中で一番、……エロいかも」
「………はぃ?」
「男なのがもったいねぇ」
「僕は、え、エロいとか…っあ!」
耳を軽く甘噛みされた。
「最後はとっておき。おまえにもちゃーんと受け応えてもらわねぇと」
「それって……どういう……」
「ディープキス」
「そ、それはさすがにやめた方が…」
今日初めてキスというものを経験して、しかも男性と、ディープキス。
「……っ痛」
千景さんは、押し倒している僕の手首をキツク掴むと、しっかり固定した。手が動かずビクともしない。
「おまえもきちんと俺の舌を受け入れて絡める、分かったか?」
「……ぇっと…」
「分かった?」
千景さんはものすごい近くまで顔を近付けて、あとわずか数ミリで僕の唇と重なってしまう。彼の拘束と恐怖に対して僕に拒否権なんかない。
「………分かりま、しっ」
言葉を言い切る前に唇を思いっ切り塞がれた。角度をいろいろな方向に変えて、塞いでは軽く離しを繰り返し。僕がトロンとなってきたところで、口内に舌が侵入してきた。まずは丁寧に舌で歯茎を左右になぞって、口内を掻き回す。そして唇を密着させたままスライドさせると、舌が触れ合う。チュクっと生暖かい千景さんの舌が絡み、共有を求められた。
「んン……ふぁ………」
意を決して恐る恐る千景さんの舌に触れる。そして優しく包むようにゆっくり絡めてみた。恥ずかしくて、涙が出てきた。
「はぁ……もっ、……んゃ…」
恥ずかしくて、強引に離れようとすると、ダメと言わんばかりに頭を片手で掴まれ抑えつけられ、離れようにも離れられなくなった。
「……ぁ……んンン…っ」
口に隙間が無くなるくらい唇を合わせて、何度も何度も絡め合い、すり合わせた。身体中が熱くて、全身に甘い痺れが走る。
次第にチュクっと水音も増し、互いの唾液が、横になっている僕の喉の奥へと流れ込む。それを飲み込んで、飲みきれなかった唾液が口から垂れた。
「ん……ゃぁ……くる、し…は、ぁ…」
「マジたまんねっ、」
「ン……っ……」
一度離されたかと思ったら、また唇を塞がれ、息もままならない為窒息死しそうで怖かった。
「舌、もっと出せよ」
「ん…………ァ……」
最初は怖かった。もしかしたら殺されるんじゃとか、キスしたことないし下手で機嫌を損ねさせたら…とか頭にたくさんあった。でも僕自身は千景さんとのキスは嫌じゃなかった。遂には恐怖もなく頭が真っ白になるくらい気持ちよくて、甘いキスに酔いしれた。
「はぁ…………んっ…」
舌を引っ張り出され、舌が空気に触れた。千景さんから唇が離され舌も解放されたが、不恰好にも舌をちょっと出して、余韻に浸ってしまった。
「はぁ……はぁ……ぁ」
「……上出来っ」
千景さんはペロッと涙を舐めとり、髪の毛を優しく撫でた。
「はぁ……はぁ……」
「いい子」
僕は肩で息をしながら呼吸を整え、千景さんが僕をゆっくり起こして背中をさすってくれた。まるで小さな子供をあやすような感じだ。
「………もう、しないでくださいよ」
「……男っぽくなったらな」
「僕はおとこっ…!!」
ガバッと抱きしめられた。僕は戸惑って身体を離そうとするが、千景さんの両腕に力強くくるまれていて離れない。そして苦しい。
「可愛いな、おまえ」
「か、からかわないでください…!」
「あんな気持ち良さげな顔してンだしな」
「しっしてません!」
気持ち良くないと言えば、本当は嘘だ。
「まるで少女だな、ん?俺、ロリコン?いやロリコンでも俺の大切なハニー達だから許される」
「…ロリコンって、僕は高校2年生…少女でもないです!」
「そうやってムキになる所も、いけねえと思うぜ」
「……ム、ムキになんて、別に…」
千景さんは僕を離すと、頬に手を触れ顔を上に上げさせられた。キツく抱きしめられたせいで少し息が切れる。
「キスの仕方、まだまだたくさんあるんだぜ?」
「……ありませんよ」
千景さんは、頬を優しく撫で、笑顔をこぼす。完全に主導権を握られた僕は、もう否定するしかない。
「また今度教えてやるよ、徐々に、な」
千景さんの瞳が妖しい艶を帯びた。
「………僕に拒否権は…」
「ねぇよ」
(あっさり…………………)
「…は、はい」
そして否定すら出来なくなってしまった。
「じゃ、またな。良い休日が過ごせた」
「…はぁ…」
「溜め息すると俺との幸せが逃げるぜ?それとも…俺が帰ろうとして寂しいのか?しかたねぇな」
「ぇ……ぅあ!」
ガリっと首筋を噛まれて、小さな赤い痕をつけられた。
「帝人、気に入った。さすが、俺の目に狂いはなかった。To羅丸の総長として、ダラーズのボスとしてだけじゃなくてよお、男と女?として今後もよろしく」
「えっ……」
「その痕見て、寂しさ紛らわせて。俺にはたくさんのハニー達が待ってるからよお。また来るから」
「…は…………はい……」
僕は、ただ「はい」とだけ呟いた。千景さんが僕の部屋から出て行った後しばらく放心していた。巡る巡る数々の出来事が頭を駆け回り整理に追われていた。しばらくして少し落ち着いくと、噛まれた所を触る。するとせっかく少し落ち着いたのにいきなり恥ずかしくなり、一人で頬を真っ赤に染めて、丸くなる。
(うわぁぁぁ…!僕はなんてことを…!!)
恥ずかしくて恥ずかしくて、耳まで真っ赤にして。
「……完全に、あの人に目を付けられた…よね」
(今度って…どうなるの…僕…!?)
こんな展開になったのは誰も予想出来なかった。池袋の休日がもたらした些細な非日常。帝人は混乱しながらも、心臓の鼓動が速かったが、これが何であるのかを知るのはまた別の話。





20100315
・・・・・・・・・・・・
キスが好きです。口と舌と体液は興奮するよねって話です。
ここまでお付き合いありがとうございました。


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