ハリポタ夢小説「Bon appétit!」 | ナノ


▼ 01

そこまで読み進めて、私は本をパタリと閉じた。
汽車の車輪がレールを駆動する騒音や揺れを感じるままに瞳を閉じれば、窓から差し込む暖かな光にうつらうつらとしてしまう。今日から入学するホグワーツ魔法魔術学校まではもう少しあるから、お昼寝をしても問題はなさそうだ。
誰もいないコンパートメントで気兼ねなく欠伸をし、何度も読み込んだ本を鞄へしまう。ローブを小さく折りたたみ、枕がわりに。平均より小柄な私にとっては、この座席は寝くつろげるほどの広さだ。
車内放送があれば自ずと起きれるだろうと高をくくり、寝転がろうとした。そこへ戸を開ける音がし、中途半端に傾けた身体を押しとどめる羽目になる。誰だろうかと目線を上げれば、美しいエメラルドグリーンの双眸と視線が絡んだ。

「ねぇ、ここ相席してもいいかしら?他はもういっぱいだったの」
「…ええ、どうぞ」
「ありがとう!」

枕にしようとしたローブをそっと膝へ乗せ、手招けば、ふわりと微笑む彼女は赤い髪を揺らし、私の隣へ腰掛けた。そして後ろに居たらしい黒髪の男の子はしばし躊躇った後、私の前へ座る。腰を落ち着ける際、軽く会釈をしてくれたので、こちらは微笑みでもって返礼した。

「私、リリー・エヴァンス。こっちは幼馴染のセブルス・スネイプよ」
「名前・苗字。どうぞよろしくね、Ms.エヴァンス、Mr.スネイプ」
「リリーと呼んで。私たち友だちになりましょう!」

太陽のような満面の笑みと共に差し出された手を思わず握り返しながら、こういうタイプの人間は少し苦手だなと思った。しかしそれを顔に出すほど子どもではない。それはマナーにだけはやたらと厳しかった親の教育の賜物である。
リリーがとめどなく話し続け、それへ適当に相槌を打っていれば、いつの間にか窓の外は暗闇に包まれ、駅に辿り着く少し手前。Mr.スネイプには一旦廊下へ出てもらい、リリーの着替えを手伝う。私は先に着替えていた為、それほど時間は取らなかった。交代でコンパートメントを使う間もリリーの口はずっと閉じられることなく動く。どれほど彼女が魔法を学ぶ事に興味を持ち、好奇心を膨らませ、意欲的かがわかった。父親が魔法族で母親がマグルな私も、その気持ちがわからなくもない。
比べてMr.スネイプは静かなものだった。リリーが言うには、彼は元々魔法が使えたようで、お母様が純血家系らしい。その割には、とあまり裕福そうでない容姿を見たが、何かそこに家庭の事情があるのだろう。初対面で根掘り葉掘り聞くような厚顔無恥ではない。

「組み分けってどうするのかしらね?好きな呪文を聞かれたりするかしら?」
「…ええ、もしかしたらそうかもしれないわね」

本当は帽子をかぶるだけだが、それを正直に伝えるのは、サンタクロースを信じる子どもに真相を明かすような気分に思えた。相変わらずだんまりで薬学の教科書を開いている彼も何も言わないあたり、そっとしておいた方がよさそうだ。

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